ギラン・バレー症候群
急性免疫性ニューロパチーの代表的疾患であるギラン・バレー症候群(Guillain-Barre Syndrome, GBS)は、感冒等の上気道感染や下痢を伴う胃腸炎に感染して1~2週間後に、手足の先にしびれや力の入りにくさが出てきます。その後数日から2週間のあいだに急速に症状が進行することが特徴です。神経症状が出てから2週から4週で症状はピークになり、重症例では四肢麻痺が進んで歩行に介助を要し、10数%の患者さんは呼吸筋にも麻痺が及んで人工呼吸器を装着することが知られています。また約半数の人は顔面神経麻痺、複視、嚥下障害といった脳神経障害を生じます。頻脈、徐脈、起立性低血圧、膀胱直腸障害といった自律神経障害を伴うこともあります。
診断に役に立つ検査としては、脳脊髄液検査、神経伝導検査、血清抗糖脂質抗体測定があります。先行感染病原体のもつ糖脂質に似た構造に対して産生された抗体が、末梢神経の糖脂質と結合して神経障害をきたすというのが発症機序のひとつと考えられています(図)。この抗糖脂質抗体は約60%の患者さんに陽性となります。治療をしなくても徐々に改善し始めて約半年ほどで多くの方はよくなりますが、1年後も歩行に介助を要する方が16%存在すると言われています。
治療としては血漿浄化療法、経静脈的免疫グロブリン療法(IVIg)という免疫調整療法が確立されており、約70%の方に有効とされています。またGBSには目が動かなくなりふらついて歩けなくなるというフィッシャー症候群をはじめとして、嚥下障害に首および上腕の筋力低下を特徴とする咽頭頸部上腕型GBSなどいくつかの亜型が知られています。
血管炎によるニューロパチー
急性、亜急性に発症する免疫性ニューロパチーでは、血管炎性ニューロパチーが代表的です。神経症状は左右非対称であることが多く、全身性の様々な血管炎を伴うニューロパチーです。四肢の痛みもしばしば認めます。そのほか全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群等の膠原病に伴うニューロパチーもあります。
慢性免疫性ニューロパチー
2ヶ月以上の経過で徐々に進行する慢性免疫性ニューロパチーでは、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー (CIDP)と多巣性運動ニューロパチー (MMN)が代表的です。ほかにM蛋白血症を伴うニューロパチー、POEMS症候群(Crow-Fukase 症候群)などがあります。CIDPとは四肢の筋力低下、感覚障害で発症し、2ヶ月以上にわたり進行性あるいは再発性の経過をとる末梢神経障害です。
約半数が四肢の筋力低下、感覚障害が左右対称性で、四肢の近位と遠位の両方が障害される典型タイプです。そのほかに左右非対称で多くが上肢から始まるタイプ、四肢の遠位の障害が目立つタイプなどいくつかの亜型が存在します。
治療としては、血漿浄化療法、IVIg、副腎皮質ステロイドホルモンがそれぞれ同等に有効です。GBSと異なり、再発をきたしうる病気なので治療の維持、継続が多くの場合必要です。
診断に有用な検査として、脳脊髄液検査、神経伝導検査があります。GBSと違って自己抗体はまれです。病態はよく分かっていませんが、最近、一部の患者さんに末梢神経蛋白に対する自己抗体や抗糖脂質抗体が発見され、発症メカニズムについての研究が進んでいます。
MMNは多巣性に伝導ブロックをきたす、左右非対称性の純粋運動ニューロパチーです。感覚障害はありません。上肢遠位から発症することが多く、左右非対称な筋力低下、筋萎縮を示します。脳神経障害、呼吸筋麻痺は極めてまれです。約40~50%の患者さんにIgM抗糖脂質抗体を認めます。
治療としてIVIgのみ有効とされています。