意識障害とは
意識障害には意識レベル(清明度)の障害と意識内容の障害(意識変容)があります。意識レベルの障害は、①大脳皮質の広範な障害(通常両側性)、②上行性網様体賦活系(狭義には中脳~視床)の障害、③両者、④心因性、のいずれかによります。
意識変容は①大脳皮質の広範または局所的障害、②心因性、により生じます。急性意識変容は急性脳症(別項参照)、非痙攣性てんかん重積状態、脳卒中、中枢神経系感染症、薬剤性、心因等により生じます。
意識障害には様々なレベルがあります。昏睡状態でなくとも、眠りがちになったり、会話や考えが混乱したり、集中力を欠いたり、明瞭に思考できない状態も含まれます。
意識障害の原因
意識障害は、とくに高齢者において救急外来受診の主な原因の1つです。突然の意識障害は、脳または心臓の血管障害、不整脈、てんかん発作によることが多いですが、生命に危険を及ぼす感染症から薬剤、肺や肝臓、腎臓などの臓器の機能不全までさまざまです。米国の救急外来での調査によれば、急性発症の意識障害例の最終診断は、脳神経疾患28%、中毒性疾患21%、外傷14%、精神疾患14%、感染症10%、内分泌代謝疾患5%でした。
意識障害の診断
診断上、問診と診察が最も重要です(表1)。画像検査は万能ではありませんので、いたずらに画像検査に期待し過ぎることは正しくありません。原因を探るために、様々な検査が行われます。よく行われる検査としては簡易血糖検査、心電図、頭部CT検査、血液検査などがあります。必要に応じて、頭部MRI検査、脳血管撮影、髄液検査、脳波検査等も適宜、行われます。
表1 病歴からの意識障害の病態鑑別
現病歴
- 突然倒れた
→脳卒中、けいれん、急性心筋梗塞、致死的不整脈 - 受傷後の意識清明な期間の存在
→急性硬膜外血腫 - 感染症状(発熱など)をともなう
→敗血症性脳症、敗血症関連脳症、中枢神経系感染症 - 突然の頭痛
→脳卒中(とくにくも膜下出血)、脳腫瘍内出血 - 突然の後頭部や首・うなじの痛み
→脳梗塞(とくに椎骨脳底動脈解離) - 低酸素、低血圧、不整脈のエピソード
→低(無)酸素・虚血後脳症 - 急激な検査データ変動
→橋中心・橋外髄鞘崩壊症 - 変動する意識障害
→血栓性血小板減少性紫斑病、非痙攣性てんかん重積状態
既往歴
- 日頃は健康であった
→脳卒中、頭部外傷、中毒性疾患 - 以前にも意識障害
→低血圧症、てんかん、脳卒中、急性代謝性脳症、不整脈、息こらえ、心因性 - 動脈硬化性危険因子、心房細動
→脳梗塞、脳内出血 - 悪性腫瘍
→脳血管障害(トルーソー症候群、腫瘍塞栓)、頭蓋内転移、腫瘍随伴症候群、進行性多巣性白質脳症 - 糖尿病、腎・肝・肺疾患
→脳梗塞、脳内出血、急性代謝性脳症、くも膜下出血(多発性嚢胞腎合併例) - 重症筋無力症・内分泌疾患
→甲状腺クリーゼ、重症筋無力症クリーゼ - 精神科疾患
→低ナトリウム血症(水中毒)、薬物中毒、心因性、悪性症候群、橋中心・橋外髄鞘崩壊症 - 温暖な地域での土を掘り返す作業に伴う創傷
→破傷風(通常は意識清明) - 免疫抑制状態、移植前後、免疫不全症
→脳炎、髄膜炎、進行性多巣性白質脳症 - 消化器・精神・神経系疾患の共存
→ポルフィリア、ホイップル病 - 頭部外傷
→慢性硬膜下血腫、慢性外傷性脳症
薬物歴
- ステロイド薬
→副腎クリーゼ - 多量の飲酒
→低ナトリウム血症、アルコール離脱症候群、硬膜下血腫、肝性昏睡、ウェルニッケ脳症、橋中心・橋外髄鞘崩壊症 - 向精神薬、抗パーキンソン病薬、鎮吐薬、スルピリド(特に新規・変更・中断薬物の存在)
→悪性症候群 - 麻薬・大量服薬・服毒の関与を示唆する物証
→中毒、離脱症候群 - 麻酔薬
→悪性過高熱症 - 免疫抑制薬
→脳炎、髄膜炎、進行性多巣性白質脳症
発症年齢による意識障害の特徴
高齢者における意識障害の特徴を以下にまとめます;(1)感染症、脱水、代謝異常など脳以外の病変により、意識障害をきたし易い、(2)このため基礎疾患の治療による可逆的な意識障害もよくみられます、(3)脳卒中、とくに脳梗塞と代謝性要因が比較的多い、(4)薬物過多などの医療的要因による意識障害も多く、(5)しばしば多臓器にわたる基礎疾患を有する、(6)自発性低下や意欲減退での発症や、認知障害や精神症候の合併により発見が遅れ易い、(7)経過中にせん妄(せんもう、意識混濁に加えて奇妙で脅迫的な思考、幻覚、錯覚が見られる状態)を生じ易い、(8)経過中に感染症、脱水、心不全を合併し易い、(9)広範な脳梗塞発症後の予後は若年者よりも不良です。