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神経内科の主な病気

症状

 運動失調症とは、目的の運動に関係する様々な動きの協調性が悪くなるため、それを円滑にできなくなる病態を指します。運動失調症の代表的な症状は、起立・歩行時のふらつきです。手の巧緻(細かな)動作も障害されます。具体的には書字が下手になり、水を満たしたコップを持つと手が震えてこぼしたり、着衣動作でのボタンの掛けはめや、箸を使って食事するなど普段意識していない動作が円滑にできなくなります。飲み込みが悪くなり、むせて咳き込みやすくなります。また、言葉も呂律が回らなくなります。お酒は少量でも酔い易くなります。
 小脳の障害に伴う運動失調と似た症状は、内耳の一部である前庭の障害、深部覚の障害などでも認められます。前庭系は頭部の加速度を三次元的に感知します。障害されると急性期には強いめまいと、吐き気等を伴い、開眼した状態では回転するようなめまいに襲われます。臥床して閉眼するとこれらの症状は軽くなります。その典型はメニエール病、前庭神経炎、良性発作性頭位眩暈症の急性期で認められます。深部覚の障害をきたす末梢神経障害や頸髄後索の障害でも運動失調をきたします。また、視覚情報の処理や、物体の運動の追跡などにかかわる視覚連合野である大脳頭頂葉の障害では、見ているものをつかめないなどの、運動失調に似た症状をきたします。
 脱力やシビレ感がなくても、このような症状をきたす場合は神経内科を受診しましょう。これらの鑑別診断は脳神経内科医の専門分野です。

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病変分布と症状との関係

 小脳のみならず小脳の投射路が障害されると運動失調をきたします。脳血管障害、外傷、脱随疾患、腫瘍などがその代表です。これらの疾患では、運動失調は身体の一部に強く現れます。それに反して、慢性アルコール中毒、薬物中毒、感染症に伴う小脳炎、代謝障害、自己免疫性機序によるもの、悪性腫瘍などに伴う小脳の障害(二次性性運動失調症ともいいます)では、初期には小脳正中部(虫部といいます)の障害を示す起立歩行のふらつきが最初に現れ、小脳半球へ病変が拡大するにつれて四肢の巧緻運動、構音や嚥下機能(ことばや飲み込みの機能)等の異常へと進展してゆきます。脊髄小脳変性症にみる小脳症候もこのような進展を示します。
 運動失調きたす基礎疾患の中には、治療可能な病気も多いので、鑑別診断は大切です。

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脊髄小脳変性症

遺伝性脊髄小脳変性症

 先に述べた二次性運動失調症と鑑別された一群の慢性進行性小脳性運動失調は、脊髄小脳変性症(SCD)として伝統的に分類されています。日本のSCDの約30%は遺伝性疾患です。分子生物学の進歩に伴い遺伝性SCDでは病気の原因となる遺伝子変異が次々と解明されています。既に40余の常染色体優性(顕性)遺伝性の運動失調症 (特に脊髄小脳失調症SCAともいいます)において原因遺伝子と病気の原因となる遺伝子変異が解明されています。ヒト遺伝子地図に登録された順番にちなんでSCAに番号が附与されています。SCA1とは最初に遺伝子座の決定された疾患であることを示しています。これらのSCAの頻度は国や地域により異なります。日本ではマシャド・ジョセフ病(SCA3)、SCA6 、SCA31、DRPLA(歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症)が多いのが特徴です。まだ原因遺伝子が未同定のものが10~20%残されています。
 上記以外に、常染色体劣性(潜性)遺伝性やX染色体連鎖性SCDが多数報告されていますが、頻度は多くはありません。劣性遺伝性SCDの代表的疾患はフリードライヒ運動失調症です。この疾患は欧米に多いのですが、日本からは未だ報告されていません。若年発症の運動失調に低アルブミン血症、眼球運動失行、末梢神経障害を伴う劣性遺伝性SCDが眼球運動失行と低アルブミン血症を伴う早発型失調症(EAOH)として日本から報告されています。

 遺伝性痙性対麻痺は伝統的にSCDの一群に含めて取り扱われてきました。痙性対麻痺(SPG)とは、進行性の痙性対麻痺(両下肢のつっぱりを伴う運動麻痺)を主徴とする一群の疾患の総称です。痙性対麻痺をきたす当該遺伝子とその遺伝子変異は既に70種類以上も見つかっています。臨床的には痙性対麻痺のみを主な症候とするものを"純粋型"、痙性対麻痺以外の症候を伴うものを"複合型"として診断しています。

孤発性脊髄小脳変性症

 日本ではSCDの約70%は成年期に発症する孤発性です。孤発性SCDの70%が多系統萎縮症(MSA)と診断されています。MSAは小脳性運動失調、抗パーキンソン病薬が効きにくいパーキンソン症状、自律神経障害を三大症候として診断基準が作成されています。残り30%は小脳性運動失調症のみを呈し、皮質性小脳萎縮症(CCA)と診断されています。最近の調査研究によると、後者の中にはMSAの初期、家族歴の不明な遺伝性SCAなどが含まれていることが明らかになりました。しかし、既知の疾患を慎重に鑑別しても、CCAとして臨床診断せざる得ない一群が残ります。MSAは脳内に不溶化したαシヌクレインというタンパク質が蓄積します。特にオリゴデンドロサイトという細胞に封入体を形成することが特徴です。運動失調症の多くは小脳が萎縮します。疾患によっては脳幹や被殻なども萎縮します。

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診断に必要な検査

 診断には発病年齢、家族歴、経過、神経症候など基本的情報が必要です。MRI検査で小脳萎縮、脳幹萎縮、基底核の萎縮や信号強度の変化などを評価します。萎縮はX線CTでも判ることがあります。黒質ドパミン産生細胞の状態、小脳の血流や糖代謝の低下、心臓交感神経の変性などについては核医学検査で評価します。自律神経障害としては神経因性膀胱、起立性低血圧、勃起不全、呼吸障害の有無が重要です。遺伝性SCAが疑われる場合には遺伝学的検査を行なうことがあります。ただし、遺伝子変異と病気との関係が確立されているものしか診断できないので、検査を受けても確定診断に至らない場合もあります。

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治療法について

 病気の進行を阻止する、治すといった根治的治療法は現時点では確立されていません。パーキンソン症状、自律神経障害、痙縮、不随意運動、てんかんなどを伴う場合には、症状に応じて薬物治療を選択します。身体機能を維持するために早期からのリハビリテーションが大切です。遺伝の問題に悩む方は、遺伝カウンセリングを受けることができます。療養生活においては各種福祉制度も活用しましょう。

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