臨床神経学

症例報告

過剰内服によるコリン作動性副作用をみとめた塩酸ドネペジル急性中毒の1例〜経時的な薬物血中濃度による検討〜

矢野 英隆, 福原 葉子, 和田 健二, 古和 久典, 中島 健二

鳥取大学医学部脳神経内科〔〒683-8504 鳥取県米子市西町36-1〕

症例は79歳女性である.アルツハイマー型老年痴呆として塩酸ドネペジル(DPZ)にて加療されていた.DPZ 45 mgを誤用し救急受診した.徐脈,嘔吐,縮瞳,呼吸機能低下等のコリン作用をみとめ,DPZによる急性中毒と診断した.硫酸アトロピンを投与後,入院にて経過観察を行った.第5病日には全身状態も安定したので退院し,約4週間の休薬後,内服再開した.DPZの血中濃度は,入院時54.6 ng/mlと高値を示し,約55時間で半減し,約90時間で正常域まで低下した.DPZは過剰摂取で中毒症状をおこしやすいので,十分な薬物管理をおこない,誤用を避けることが重要である.また,DPZの半減期が長く,代謝の個体差が大きいことから,DPZによる急性中毒例は入院加療が望ましい.

(臨床神経, 43:482−486, 2003)
key words:アルツハイマー型老年痴呆, 塩酸ドネペジル, コリン作動性副作用, 過量投与, 血中濃度

(受付日:2003年3月6日)