日本神経学会 神経学用語集

凡例

凡例目次

  1. 編集方針
  2. 語彙の収集
  3. 欧語用語の選定と表記法
    1. 採用の基準
      (1)採用の対象
      (2)欧語の種類
      (3)品詞の種類
      (4)除外
      (5)古語
      (6)複数形
      (7)人名詞所有格
      (8)人名冠詞
      (9)“the”の省略
      (10)略語
    2. 同義語の選定基準
    3. 英語と他の欧語の表記
    4. 解剖学用語の表記
  4. 日本語用語の選定と表記法
    1. 採用の基準
      (1)同義複数語の整理
      (2)同類語,近似語,対比語の整理
      (3)発音の整理
    2. 仮名表記法
      (1)欧語のカタカナ表記
      (2)カタカナ,ひらがな表記
      (3)漢字/カタカナの選択
      (4)漢字のひらがな書き
    3. 「症」,「法」,「術」の使い分け
      (1)「症」の使い分け
      (2)「法」と「術」の使い分け
  5. 特定用語の解説
    1. “~性~”の使用基準
    2. age:年齢期
    3. alternate, alternating, alternative:交叉性,交代性
    4. associated movement, coordination, synergy:連合運動,協調運動,協働収縮(運動)
    5. attack, episode, fit, paroxysm, seizure, spell, stroke:発作
    6. concomitant, congruent, conjugate:共動性,合同性,共同性
    7. crisis:急性悪化,発作
    8. deep reflex, deep tendon reflex, tendon reflex:腱反射
    9. disease:病,疾患
    10. disorder:疾患,障害
    11. disturbance of consciousness:意識障害
    12. dizziness, giddiness, vertigo:めまい[感],くらくら感,回転性めまい
    13. dysesthesia, paresthesia:異常感覚,錯感覚
    14. familial, hereditary, isolated, sporadic:家族性,遺伝性,散発性,孤発性
    15. fasciculation:線維束性収縮
    16. finger, toe:指,趾
    17. hemi-:半[側],片[側]
    18. -ia, -us, -y
    19. index, quotient, scale, score:指数,商,尺度,評点
    20. language, -lalia, speech:言語,発語,発話
    21. myotonic, tetanic, tonic:筋強直性,強縮性,緊張性,強直性
    22. oculo-:眼球~,~眼球
    23. -oma, tumor:腫,腫瘍
    24. perception, sensation, sense, sensory:知覚,感覚
    25. peroneal:腓骨部,腓骨神経,腓骨型(付:humeral)
    26. pseudo-:偽性
    27. receptor:受容体,受容器
    28. rigidity:硬直,強剛,固縮,強直
    29. senile:老年,老年性
    30. spasm[us],spasticity:攣縮,痙縮
    31. test:検査,試験
  6. 見出し語の配列
  7. 和欧編での欧語配列
  8. 記号の説明

I.編集方針

主旨については序文に述べたが,具体的に示す.

  1. 本用語集に収載する用語の対象範囲は臨床神経学の領域を主体とした.臨床神経学と関連のある,比較的繁用される周辺領域の用語も対象に加えた.
  2. 欧語は英語を主体とした.他の欧語は必要と思われるものを最小限加えた.解剖学用語はラテン語用語を多く採用した.定義の不明確な用語は採用を見送った.
  3. 一つの事項に対し,従来複数の日本語が用いられていたものはこれを整理し,単一化した.
  4. すでに長く使用されてきた日本語用語の中には,当初の誤解などに基づく,不適正なものもある.臨床神経学固有の用語は神経学会用語委員会で修正されない限り変更されないとの観点から,多少の混乱を考慮しながらも,改変に踏み切ったものがある.
  5. 日本語用語の選定に当たり,内容の的確さと日本語としての表現を十分考慮した.しかし誤解される可能性のあるものについては註釈や解説を補足した.
  6. ここに収載された用語は,現時点における日本の臨床神経学の標準用語たるべく十分な検討を加えた.本学会機関誌等の論文記述に際して十分参照されることが望まれる.

本用語集の構成

1 凡例,2 欧和編,3 和欧編,4 略語編の 4 部から構成されている.これらは全体として機能するように編集されているので,各部を有機的に活用されたい.

II.語彙の収集

  1. 抽出資料(和書五十音順,洋書アルファベット順)
    • 医学用語辞典(Japan Medical Terminology), 南山堂,1984.
    • 医学略語辞典(牛場大蔵監修),中央法規出版,1990.
    • 言語障害に関する用語集案(日本リハビリテーション医学会・学術用語言語障害特別委員会),1976.
    • 言語障害に関する用語集(委員会案)(日本リハビリテーション医学会・言語障害委員会),1977.
    • 新・医学略語事典(大国真彦監修),改訂二版,第一製薬/アサヒメディカル,1985.
    • 神経学用語集(日本神経学会用語委員会),初版,1975.
    • 新版生理学用語集(日本生理学会),南江堂,1984.
    • ステッドマン医学大辞典,改訂第 2 版,メジカルビュー社,1985.
    • てんかん学用語集,てんかん研究,5(2),1987.
    • ドーランド図説医学大辞典,常用版,廣川書店,1982.
    • 内科学用語集(日本内科学会),改訂三版,1978.
    • 外科的疾患用語集(日本外科学会医学用語委員会),金原出版,1987.
    • 脳波・筋電図学用語集(日本脳波・筋電図学会),1991.
    • 平衡神経科学用語集(日本平衡神経学会),1983.
    • Brain's Diseases of the Nervous System(Walton, J.). 9th Ed., Oxford University Press, Oxford, 1985.
    • Classification and Diagnostic Criteria for Headache Disorders, Cranial Neuralgias and Facial Pain(Headache Classification Committee of the International Headache Society). Cephalalgia, vol. 8 suppl. 7, 1988.
    • Clinical Neurology(Joynt, R.J.). J.B. Lippincott, Philadelphia, 1990.
    • Dorland's Medical Dictionary. 27th Ed., Saunders, Philadelphia, 1988.
    • Glossary in Perspectives in the Brain Sciences, vol. 1 The Sleeping Brain(M.K. Chase). Brain Information Service, Brain Research Institute Univercity California, 1972.
    • Greenfield's Neuropathology(Adams, J.H., Corsellis, J.A.N., Duchen, L.W.). 4th Ed., Edward Arnold, London, 1984.
    • Merritt's Textbook of Neurology(Rowland, L.P.). 8th Ed., Lea & Febiger,Philadelphia, London, 1989.
    • Neuro-ophthalmology(Glaser, J.S.). Harper-Row, Hargerstown, 1978.
    • Pathology of the Nervous System(Minckler, J.). McGraw-Hill, New York, Vol. 1, 1968, Vol. 2, 1971, Vol. 3, 1972.
    • Pediatric Neurology, Principles and Practice(Swaiman, K.F.). C.V. Mosby, St. Louis, 1989.
    • Principles of Neurology(Adams, R.D., Victor, M.). 4th Ed., McGraw-Hill Information Service, New York, 1989.
    • Revised Classification of Epilepsies, Epileptic Syndromes and Related Seizure Disorders(Commission on Classification and Terminology of the International League against Epilepsy). Epilepsia, 30(4):389‐399, 1989.
  2. 参考資料(順序同前)
    • 医学英和大辞典(加藤勝治編),第 10 版,南山堂,1984.
    • 医学生物学大辞典・Dictionnaire Francais de Medecine et de Biologie(内薗耕二ほか監修),メヂカルフレンド社,1983.
    • 医学大辞典,第 16 版,南山堂,1978.
    • 解剖学用語(日本解剖学会),改訂 12 版,丸善,1987.
    • 学術用語集動物学編(日本動物学会),丸善,1988.
    • 眼科用語集(日本眼科学会),医学書院,1988.
    • 眼科用語とその解説(加藤 謙),増補改訂第 2 版,金原出版,1981.
    • 広辞苑(新村 出編),第三版,岩波書店,1984.
    • 国語大辞典(尚学図書編),小学館,1988.
    • 耳鼻咽喉科学用語解説集(日本耳鼻咽喉学会),1976.
    • 広範囲症候群,日本臨床新訂版(555 号),日本臨牀社,1987.
    • 新英和大辞典(小稲義男ほか編),研究社,1987.
    • 新字源(尾崎雄二郎ほか編),角川書店,1988.
    • 精神医学事典(加藤正明ほか編),増補版,弘文堂,1985.
    • 精神神経学用語集(日本精神神経学会),1989.
    • 大漢語林(鎌田 正,米山寅太郎編),大修館書店,1992.
    • 大字源(尾崎雄二郎ほか編),角川書店,1992.
    • 大字典(上田万年ほか編),講談社,1985.
    • ランダムハウス英和大辞典,小学館,1988.
    • 臨床神経学(日本神経学会).vol. 5‐30, 1965‐1990.
    • A Glossary of Terms Most Commonly Used by Clinical Electroencephalographers(International Federation of Societies for Electroencephalography and Clinical Neurophysiology), Electroencephalography and Clinical Neurophysiology, 37(5):538‐548, 1974.
    • Blakiston's Gould Medical Dictionary. 4th Ed., McGraw-Hill, New York, 1979.
    • Butterworths Medical Dictionary. 2nd Ed., Butterworths, London, 1978.
    • Churchill's Medical Dictionary. 1st Ed., Churchill Livingstone, New York, 1989.
    • Dictionnaire des Termes Techniques de Medecine. 20e Ed., Maloine, Paris, 1980.
    • Die klinischen Syndrome. 5. Aufl., Urban & Schwarzenberg, Munchen, 1972.
    • Stedman's Medical Dictionary. 25th Ed., Williams and Wilkins, Baltimore, 1990.
    • The International Classification of Sleep Disorders, Diagnostic and Coding Manual(American Sleep Disorders Association), Allen Press Inc. Lawrence, Kansas, 1990.

III.欧語用語の選定と表記法

  1. 採用の基準
    1. (1)採用の対象:臨床神経学(神経内科)領域を主な対象とした.その周辺領域,すなわち神経解剖学,神経病理学,神経生理学,神経生化学,神経薬理学などの基礎医学領域や,精神医学,脳神経外科学,神経心理学その他の臨床医学領域の中で,臨床神経学に関係深い用語は採用した.
    2. (2)欧語の種類:英語を主体とした.その他にラテン語,ギリシア語,フランス語,ドイツ語で必要と思われる特殊な用語は最小限を採用した.
    3. (3)品詞の種類:名詞を対象とした.ただし特殊な形容詞はきわめて限られた数のみを採用した.
    4. (4)除外:薬品名,化学物質名,微生物名(細菌,ウイルス,寄生虫など)はそのもの単独では採用せず,それらの付いた疾患,症候,試験,検査法などは採用した.ただし略語編には単独で採用したものがある.また,学名は本来イタリック体で表記すべきものであるが,本用語集ではローマン体を用いている.
    5. (5)古語:現代の文献のみならず,過去の文献を読むときのことを考慮し,歴史的に重要と思われるものは採用した.
    6. (6)複数形:原則として単数形のみを採用した.複数形が特別に用いられるもののみ複数形を採用した.
    7. (7)人名詞所有格:(~'s) については要否の基準をなす定説がなく,かつ漸次省略される傾向にあるのですべて省略した形式を掲載した.欧米での慣習,編集者の見解などにより付記の有無が異なるので,実際の使用に当たってはそれぞれの執筆要項に従うものとした.
    8. (8)人名冠詞(eponym):1 臨床神経学の範囲で常用または慣用されるものは採用した.2 解剖学名の中で特に人名が付されて常用されうるものは採用した.その他の基礎領域のものは採用しないのを原則とした.3 人名が形容詞化しているものは頭文字を小文字とした(例:jacksonian epilepsy).4“disease”と“syndrome”に同一人名が冠されて用いられることがあるとき,内容が同一の場合は日本で慣用されているほうを主体とし(例:Harada disease, Behr syndrome),同等に用いられているときは両者を採用した(例:Behcet disease, Behcet syndrome).5 disease と syndrome とで意義の異なるものは当然別個に扱った(例:Parkinson disease, parkinsonian syndrome).
    9. (9)“the”の省略:本来 the を冠すべき場合でも,用語集の性格からこれを省略した.
    10. (10)略語:別途に規定を設けて採用した(略語編説明参照).
  2. 同義語の選定基準
    1. (1)使用頻度の多いと思われるほうを主体に採用し,ほかを註釈に記した.いずれともしがたいものは両者を採用した.
    2. (2)人名を用いた同一語で二形式がありうるものは(例:Adamkiewicz artery・artery of Adamkiewicz) 人名が先行する前者を採用した.3 語尾のみ変化するものは慣用度の多いものを主として,ほかを従として( ) に入れ,-lia(-ly) の形式とした.
    3. (3)英語と他の欧語の表記:本来ラテン語であるが,すでに英語化して使用されているものはラテン語〈L〉見出しのみで,註釈に英語が併記されていない(例1).英語化されていないラテン語は該当する英語を註釈に併記した(例2).また他の欧語ですでに英語化されているものは,必ずしも原語 〈Gr, F, G〉 を付さず,英語化した形で収載した(例3).
    (例1) putamen〈L〉 被殻
    periarteritis nodosa〈L〉 結節性動脈周囲炎
    grand mal 〈F〉 大発作
    (例2) medulla spinalis〈L〉 脊髄(=spinal cord)
    capula alata〈L〉 翼状肩甲(=winged scapula)
    dementia paralytica〈L〉 麻痺性痴呆(=general paresis)
    (例3) ependyma〈L〉 → ependyma 上衣
    morpheme〈F〉 → morpheme 形態素
    Kernicterus〈G〉 → kernicterus 核黄疸
    1. (4)解剖学用語の表記:ラテン語用語を見出し語とし,英語用語は註釈に併記した(紙面節約のため).ただし次のものは英語見出し語とした.1 人名の付いた特殊なもの(例:Adamkiewicz artery).2 英語特有のもの(例:hamstring [muscles]). 3 特定の解剖学名でないもの(例:afferent nerve).4 組織名(例:apical dendrite).

IV.日本語用語の選定と表記法

  1. 採用の基準

    従来用いられている日本語用語をなるべく採用した.ただし以下の項目に該当するものはそれぞれの基準,原則により日本語を選定した.

    1. (1)同義複数語の整理:1 一つの欧語用語に対して同義の複数の日本語表現があるときは,(2)以下の諸項目の規定に従いすべてを一本化した.2 一つの欧語用語が複数の意義をもつときは,それぞれに対応する日本語用語に番号を付して区別し,選定採用した(例:agonist 1.主動筋,2.作動薬,3.協同薬; amygdala 1.扁桃体,2.小脳扁桃).
    2. (2)同類語,近似語,対比語の整理:従来の用語の中には各用語間を通してみたとき整合性,統一性に欠け適切でないものもある.一つの規範を設け整理した.
      1)“行”と“向”について:
      (例) ascending, descending 上行性と下行性(向を用いない)
      anterograde, retrograde 前向性と逆向性(行を用いない)
      orthodromic, antidromic 順行性と逆行性(向を用いない)
      2)“diffuse”,“pan”,“generalized”について:
      diffuse:正常あるいは生理的な場合は“広汎”,病的な場合は“び漫”とする.
      (例) diffuse projection system 広汎性投射系(び慢性を用いない)
      diffuse sclerosis び漫性硬化症(広汎性を用いない)
      pan:“汎”または“全”とする.
      generalized:“全身性”または“全般”とする.
      3)“hyper-”,“hypo-”,“a-”について:
      一対または一組の用語群では日本語に整合性が求められる.
      (例) hyperesthesia 感覚過敏
      hyp[o]esthesia 感覚鈍麻(低下を用いない)
      anesthesia 感覚消失
      hyperreflexia 反射亢進
      hyporeflexia 反射減弱(低下を用いない)
      areflexia 反射消失
      hypermetria 測定過大
      hypometria 測定過小(過少を用いない)
      hyperkinesia 運動過多「症」
      hypokinesia 運動減少「症」(寡動を用いない)
      bradykinesia 運動緩慢(寡動を用いない)
      akinesia 無動「症」(寡動を用いない)
      ただし,整合性を求めにくいものが若干ある.
      (例) hypertonus 筋緊張亢進
      hypotonus 筋緊張低下(減退を用いない)
      4)“dys-”について:
      日本語として異常,困難,不全,不良,悪化など各種の意味がある.
      1. (a) かなり包括的,概念的な場合には原則として“障害”を当てる.
        (例) dysarthria 構音障害
        dysphonia 発声障害
      2. (b) もう少し限定された症候については“異常”,“困難”,“不全”を用いる.内容と語呂により使い分ける.
        (例) dyskinesia 異常運動
        dysmetria 測定異常
        dyschromatopsia 色覚異常
        dyspnea 呼吸困難
        dysraphism 縫合不全
      3. (c)“dys-”と“a-”が同義に用いられている場合は“a-”の日本語用語を当てる.
        (例) dyslexia 失読「症」
        dysdiadochokinesis 反復拮抗運動不能「症」
    3. (3)発音の整理:日本語として二つの発音のありうるものは〔 〕内の発音を採用した.
      1 頭蓋〔ズガイ〕 (トウガイとしない)
      頭痛〔ズツウ〕 (トウツウとしない)
      頭部〔トウブ〕 (ズブとしない)
      2 重複〔チョウフク〕 (ジュウフクとしない)
      3 出生〔シュッショウ〕 (シュッセイとしない)
      4 礼拝〔ライハイ〕 (レイハイとしない)
  2. 仮名表記法
    1. (1)欧語のカタカナ表記:欧語を安易にカタカナ書きとして日本語用語にすることは極力避けた.原則として次の場合に限りカタカナ表記とした.
      1)日本語として定着した外来語(例:オリーブ核).
      2)症候名,病名で適当な日本語がなく,やむを得ずカタカナ表記するものは,日本語化したものとして(ビタミン,ウイルスの類に従い),カタカナ表記を下記のごとく制定した.したがって英語発音に必ずしも忠実ではない.

      カタカナ表記を制定した神経症候・疾患名(主要なもの)

      athetosis アテトーゼ
      myoclonus ミオクローヌス
      dyskinesia ジスキネジー
      myoclonia(-ny) ミオクローヌス症
      dystonia ジストニー
      myokymia ミオキミー
      dystrophy ジストロフィー
      myopathy ミオパチー
      hyperpathia ヒペルパチー
      myorhythmia ミオリトミー
      jargon ジャルゴン
      neuropathy ニューロパチー
      tic チック
      3)人名は原国語音を尊重するものとした.しかし,必ずしもそれに限らないものがある.

      (a)日本ですでに長く慣用され,ほぼ定着しているもの.

      (例) Babinski バビンスキー (×ババンスキー)
      Horner ホルネル (×ホルナー)
      Virchow ウィルヒョー (×フィルヒョー)
      Wernicke ウェルニッケ (×ヴェルニッケ)

      (b)ドイツ語の v, w, -er など,表音で微妙でかつ医学用語上の慣習のあるもの((a)との重複がある).

      (c)カタカナ表記上で制約のあるものは慣習に従った.

      (例) Chvostek クヴォステック (×クヴォステク,
      ×クヴォステーク)
      4)薬物名,化学物質名は日本での慣用に従ったカタカナ表記とした.
    2. (2)カタカナ,ひらがな表記:人も含め動植物の種 species を表現する場合は文部省の表記法に従いカタカナを用いた(例:ヒトリンパ球).それ以外の使用法はひらがなを用いた(例:くも膜,さくらんぼ赤色斑).
    3. (3)漢字/カタカナの選択:日本語としての漢字表記と欧語発音のカタカナ表記の両者が考えられる場合,単に欧語をカタカナで表記することの意義は薄いので,原則として前者を採用した(例:lacunar infarction ラクナ梗塞 → 小窩性梗塞, bioassay バイオアッセイ → 生物学的検定法).ただし,従来,漢字表記があったが普及しなかったものは後者とした(例:muscular dystrophy:筋異栄養症 → 筋ジストロフィー, catalepsy 強硬症 → カタレプシー).後者の場合の仮名表記は(1)2と同様である.
    4. (4)漢字のひらがな書き:本来は漢字があるが,難しい漢字など限られた漢字については漢字を廃し,ひらがな表記したものがある(例:くも膜,さくらんぼ赤色斑).やや難しいが,漢字表記のほうが理解しやすいものは漢字の後に(かな)を付し,漢字,ひらがなのいずれも使いうることを示した(例:蟻(ぎ)走感,吃(どもり)).

仮名表記法一覧(まとめ)

(仮名) (例)
a.外国人の人名 [カタカナ] ……パーキンソン
b.薬物,化学物質 [カタカナ] ……アドレナリン
c.外来語 [カタカナ] ……レム睡眠
d.漢字の仮名書き 漢字と仮名の両用 [ひらがな] ……獅子(しし)顔貌
仮名のみ使用 [ひらがな] ……うっ血乳頭
e.擬態語・擬声語 [ひらがな] ……もやもや病,ぴりぴり感
f.動物,植物名 仮名のみ使用 [ひらがな] ……くも膜,ぶどう膜炎
日本語化外来語 [カタカナ] ……オリーブ核,アテトーゼ
  1. 「症」,「法」,「術」の使い分け
    (1)「症」の使い分け
    欧語では一つの用語で病名,病態名,症候名あるいは所見名など多義を表すことがあり,それに対応する日本語用語では“症”を付けるのが妥当な場合とそうでない場合とがある(例:muscular atrophy:筋萎縮症と筋萎縮).このような両様の使い方のあることを日本語用語では「症」をもって表現した.本来“症”は病気の性質を指しすなわち症状の名称に用いられ,症状の集合が“病”である.今日ではこれとは異なり疾患名に症を付け,症候名では症を省く傾向にある.本用語集では原則として症を付す場合は疾患名や病態名または概念を指し,付さない場合は症候や所見などを具体的に指すものとした(例1~4).ただし,語呂のため所見に症を付けて表現することがありうるとしたものもある(例5).なお一部には「症」によらず両者を別の表現で区別したものがある(例6).
    (例1)
    muscular atrophy 筋萎縮「症」
    ・筋萎縮症 → 疾患,病態,概念を指す
    ・筋萎縮  → 症候,所見を指す
    (例2)
    olivopontocerebellar atrophy オリーブ橋小脳萎縮「症」
    ・オリーブ橋小脳萎縮症 → 疾患を指す
    ・オリーブ橋小脳萎縮 → 病理所見を指す
    (例3)
    ataxia 運動失調「症」
    ・運動失調症 → 運動失調を呈する病態または疾患を指す(hereditary ataxia は遺伝性運動失調でなく,遺伝性運動失調症).
    ・運動失調 → 症候を指す(limb ataxia は肢節運動失調症ではなく肢節運動失調).
    (例4)
    aphasia 失語「症」
    ・失語症 → 失語をきたしている病態,またはその概念.
    ・失語  → 失語という症候または所見
    (例5)
    hydrocephalus 水頭「症」
    ・水頭症,水頭 → いずれも所見を指す
    ・疾病,疾病概念は別に hydrocephaly がある
    (例6)
    chorea 1.舞踏病,2.舞踏運動
    (2)「法」と「術」の使い分け
    検査や手術の方法,手技,術式などの最後に付される「法」や「術」などの語は次の原則による.なお「 」の使用法は前項「症」に準じ,法,術を付す場合はその方法,手技,術式を指し,付さない場合はその事柄自体を指すものとした.

     1 検査の場合は「法」:(例)ventriculography 脳室造影「法」
     2 手術の場合は「術」:(例)ventriculocisternostomy 脳室大槽吻合「術」

V.特定用語の解説

  1. “~性~”の使用基準

    後の言葉を形容する“性”の取り扱いについては,性を極力省く考え方と,省略しすぎて妥当でないという考えがある.従来の性の省き方に対して,1 統一性を欠く,2 基準が不明確である,3 省かないほうが誤解されないものがある,などの意見がある.
    本用語集では“~性~”の使用基準を下記の原則によった.

    (1)“性”が重複し,そのいずれかを省略しても誤解をきたさず,語呂にも差し障りない場合は一部の性を削除する.
    (例1)
    それぞれの形容詞がすべて幹語の名詞にかかり,それら形容詞の性を一括して1個で済ませられる場合
    ・hyperosmolar hyperglycemic nonketotic coma
      高浸透圧性高血糖性非ケトン性昏睡 → 高浸透圧高血糖非ケトン性昏睡
    (例2)
    語順を入れかえることにより性が省け,またそのほうが解りやすいもの
    ・late cortical cerebellar atrophy
      晩発性皮質性小脳性萎縮症 → 晩発性小脳皮質萎縮症
    ・subacute combined degeneration of spinal cord
      亜急性連合性脊髄変性症 → 亜急性脊髄連合変性症
    (参考)
    “性”を省くことのできない場合
    reflex sympathetic dystrophy 反射性交感神経性ジストロフィー
    spinal progressive muscular atrophy 脊髄性進行性筋萎縮症
    acute disseminated encephalomyelitis 急性散在性脳脊髄炎
    (2)“性”を挿入すると,かえって理解しにくくなるか,誤解を生じ,また正当でない場合(3 と重複する場合がある).多くの場合は前置語が名詞である.
    (例) basilar meningitis 脳底(×性)髄膜炎
    mental retardation 精神発達(×性)遅滞
    mirror writing 鏡像(×性)書字
    (3)一つの用語が英語では(名詞)+(名詞)の形からなっている場合,原則として“性”を削除する(2 と重複するものがある).
    (例) (名詞)+(名詞)
    brain abscess ×脳性膿瘍 
    ○脳膿瘍
    finger agnosia ×手指性失認 
    ○手指失認
    (手指による失認ではなく,手指そのものの失認)
    Broca aphasia ×ブローカ性失語「症」 
    ○ブローカ失語「症」
    (4)(形容詞)+(名詞)の形からなる場合は原則として“性”を削除しない(ただし英語での形容詞の使用が妥当でないものは“性”を用いない).
    (例) (形容詞)+(名詞)
    retrograde amnesia ○逆向性健忘 
    ×逆向健忘
    (健忘の性質を示している.一過健忘といわないのと同様)
    visual agnosia ○視覚性失認 
    ×視覚失認
    (視覚による失認で,視覚を失認するのではない)
    motor aphasia ○運動性失語「症」 
    ×運動失語「症」
    (motorは形容詞として用いられている)
    cryptococcal meningitis ○クリプトコッカス性髄膜炎 
    ×クリプトコッカス髄膜炎
    (5)前項の原則に当てはまらず,“性”を入れずに慣用されているもの.日本語用語の起源がドイツ語に基づくものが多い.
    (例) cranial nerve(Hirnnerven) ×脳性神経 
    ○脳神経
    bulbar palsy(Bulbärparalyse) ×球性麻痺 
    ○球麻痺
    spinal paralysis(Spinalparalyse) ×脊髄性麻痺 
    ○脊髄麻痺
    (6)用語が英語(欧語)で一語からなるものは性を挿入しない.
    (例) polyneuritis ×多発性神経炎 
    ○多発神経炎
    polymyositis ×多発性筋炎 
    ○多発筋炎
    (参考) multiple mononeuritis ○多発性単神経炎 
    ×多発単神経炎
    mutiple sclerosis ○多発性硬化症 
    ×多発硬化症
    (7)欧語2つをハイフンで結んだ用語は両者が対等なので性を挿入しない(入れると意味を誤る).
    (例) astasia-abasia ○失立失歩 
    ×失立性失歩
    (失立により失歩をきたしたのではない)
    ataxia-telangiectasia ○毛細血管拡張運動失調症 
    ×毛細血管拡張性運動失調
    (毛細血管拡張によって運動失調を生じたのではない)
  2. age:年齢期

    年齢期 age についての英語と日本語は原則として次のように対応する.

    neonate
    (=newborn), neonatal
    新生児,新生児期 ~4週間まで
    infant, infantile 乳児,乳児期 ~1歳(または2歳)まで
    early child, - childhood
    (=preschool years, late infantile)
    幼児,幼児期 ~6歳(小学校入学)まで
    child, childhood
    (=early school years)
    小児,小児期
    (学童,学童期 小学生)
    6~12歳
    juvenile 若年者 adultに対する言葉で幼少期から成人(成熟)以前までを指す.使用され方に少し幅がある.日本語の若年は青年(下記)と同義のことが多い.
    puberty(=early adolescence) 思春期 11,12~16,17歳
    (中・高校生)
    adolescent, adolescence 青年,青年期 14,15~24,25歳
    early adolescence 思春期 11,12~16,17歳
    (中・高校生)
    late adolescence 18~24,25歳
    adult 成人 25~65歳
    (adolescent と senility との間)
    middle age 中年 40~60歳
    senility, old age 老年 65歳~
  3. alternate, alternating, alternative:交叉性,交代性

    alternate は空間的または時間的な交代を指し,一方が生じ,他方が消えるなど二者の間で交替し,あるいはその繰り返すのをいう.しかし従来の欧語(hemiplegia alternans 〈L〉) は多くの場合,一つの脳幹病変で片側の脳神経麻痺とそれより下の片麻痺とが同時に反対側に生ずる型のものを指している.これを日本語用語で交代性片麻痺とするのは妥当でなく,この内容を示すには交叉性片麻痺のほうが適切である. crossed hemiplegia がこれに相当する.これとは異なり,まれに片麻痺が時間的なずれをもって左右反対側に生ずる場合がある.これは本来の意味での alternate(-ting) hemiplegia である.すなわち alternate(-ting) hemiplegia は,1.(多くの場合)交叉性片麻痺であり,2.(まれに)交代性片麻痺である.内容により日本語を使い分ける.

    alternative vision は左右眼の屈折度が異なるとき,一側の眼を遠方視に,他側の眼を近見視に使い,使用する眼が目標に合わせて交代するので交代視とするのが妥当である.

  4. associated movement, coordination, synergy:連合運動,協調運動,協働収縮(運動)

    これらの英語(欧語)に対応する日本語の語頭に用いられる言葉には共同,共働,協同,協働,協調,連合などが無秩序に用いられていた.内容を考慮し次のごとく整理した.

    (1)associated movement 連合運動
    ある部の随意運動に伴い,それとは非合目的的に生ずる,身体他部の不随意的な病的な運動をいう.ただし,本来の不随意運動が,他部の随意運動に伴って増強したり,発現するものには用いない(例:舞踏運動).また正常にありうる一連の協同性の運動にも用いない(例:上方視に伴う上眼瞼の挙上).
    (2)coordination(coordinated movement) 協調運動
    一肢を構成する複数の肢節の合目的的な調和のとれた運動,または身体他部の同様な運動をいう.具体的に見ることができる.たとえば指鼻試験での上腕,前腕,手,示指の協調的な動き.この異常が incoordination [of movement] 協調運動障害である.
    (3)synergy(-gia) 協働収縮(運動)
    複数の筋の合目的的な収縮またはその作用の概念的名称.たとえば体幹を反り返らせるとき,体幹運動の諸筋と骨盤固定の諸筋とは協調的に同時性に収縮する必要がある.この合目的的同時性の諸筋の収縮を概念的にとらえたもの.協同,共同なども用いられたが協働を選んだ [6.の(3)参照].この障害がasynergy(-gia)協働収縮不能であり.dyssynergia cerebellaris myoclonica〈L〉をミオクローヌス性小脳性協働収縮異常症とした.
  5. attack, episode, fit, paroxysm, seizure, spell, stroke:発作

    日本語の発作に対応する英語は多種あり,その内容が異なる.以下にその特色を示す.

    attack
    症候が急激に発現すること(もの)
    episode
    症候が反復性に発現すること(もの)
    fit
    症候が急で一過性に発現すること(もの)
    paroxysm
    症候が間欠性に激しく生ずること(もの)
    seizure
    疾病,病態が突然に発現すること(もの)
    spell
    症候がひと時続くこと(もの)
    stroke
    急激に意識障害,運動麻痺などをきたすこと(もの)
  6. concomitant, congruent, conjugate:共動性,合同性,共同性

    日本語の“共同[性]”はこれまで synergic, conjugated, concomitant, congruent などさまざまなものに用いられている.しかしこれらにすべて“共同”を当てることは誤解の原因となる. synergy は協働としたが [4.の(3)参照],他についても整理が必要である.

    (1)concomitant 共動性
    本来“随伴”して共存するの意であるが,他の語と併せた用語としてはその意を表せず “共動”とした(例:concomitant strabismus 共動性斜視,incomitant strabismus 非共動性斜視).
    (2)congruent, congruous(congruity) 合同性
    congruous(または incongruous)hemianop[s]ia における左右眼の視野欠損について共同性,相似型,調和性などさまざまにいわれていた.幾何学の合同にちなんでこれに合同性(非合同性)を当てることとした. incongruent nystagmus は dissociated nystagmus のことであり,日本語はあえて非合同性を用いず解離性眼振とした.
    (3)conjugate movement(conjugation) 共同運動
    conjugateは本来は共役,結合の意.古くはconjugate eye movementも共役[眼球]運動といわれていた.両者が緊密な連繋を保ち一つとして動くものを指す.協調,協働はもとより,concomitant(付随,共存,共動性)とも異なる.共同が最適か問題はあるが,長く慣習化されており,共同とした.
  7. crisis:急性悪化,発作

    crisis 〈L〉, krisis 〈Gr〉 は,本来の「決定的な時期」の意から,医学的には「病勢の分かれ目」を指し,一方において急変,悪化,危篤などといわれ,他方において分利など(解熱して)快方に向かう急性変化に用いられる.しかし神経学的用法の多くは前者(急性悪化)の意味で用いられ,転じて発病(発症),発作が用いられる.

    従来,神経学用語では「クリーゼ」,「発症」,「発作」が用いられていたが,「クリーゼ」には上記の説明がないとわかりにくいこと,「発症」は,昨今(発病という言葉に代わって)症状の発現一般(急性,慢性)に用いられる傾向があり,上記の意味で理解されない恐れがある.これらの背景から crisis に該当する統一した日本語神経学用語を定めるのは困難であり,各用語の内容に従って日本語を設定することとした.

    (例) myasthenic crisis 筋無力症性急性悪化(ただしクリーゼともいう)
    ocular crisis 眼疼痛発作
    oculogyric crisis 眼球回転発作
    tabetic crisis 脊髄癆性疼痛発作
  8. deep reflex, deep tendon reflex, tendon reflex:腱反射

    Wartenberg 等の指摘により tendon reflex(腱反射)という言葉が論理的に正当でないということから,それに代わる各種の用語が試作された.superficial reflex(表在反射) に対し,deep reflex(深部反射) がつくられたのもその一つである.前者は皮膚,粘膜など体表面を刺激することからつくられたが,後者の deep がどこを指すか不明確である.そこで deep reflex と tendon reflex を合わせて deep tendon reflex(深部腱反射) がつくられた.しかし tendon に浅部,深部の二つあるかのような誤解を生じ,また Wartenberg の意に反して結局は tendon が用いられており,好適な用語とはいい難い.これらをいずれか一つに整理するようにとの要望に従い日本語用語としては腱反射(tendon reflex)を採用することとした.古くから用いられ,それに代わる適当なものがなく,簡潔であり,神経学領域以外の人からもよく理解されているからである.

  9. disease:病,疾患

    日本語では病と疾患とに使い分けられる.原則として“病”は単一疾病名に用い(例1),“疾患”は疾病の集合名や概念的,包括的な場合に用いる(例2).ただし,若干の例外がある(例3).

    (例1) Alzheimer disease アルツハイマー病
    kinky-hair disease 縮れ毛病
    moyamoya disease もやもや病
    (例2) demyelinating disease 脱髄疾患
    motor neuron disease 運動ニューロン疾患
    hepatocerebral disease 肝脳疾患
    (例3) glycogen storage disease 糖原病
    inclusion body disease 封入体病
  10. disorder:疾患,障害

    疾病を指す場合と病的状態(障害)を指す場合とがある.前に症候語が付くときは前者を指し,臓器,機能語が付くときは後者を指すことが多く,それぞれに“疾患”(例1)と“障害”(例2)を用いる.ただし例外もある(例3).

    (例1) convulsive disorder 痙攣性疾患
    (例2) cerebrovascular disorder 脳血管障害
    speech disorder 言語障害
    (例3) movement disorder 運動異常「症」
  11. disturbance of consciousness:意識障害

    ある時間持続する意識の低下(混濁)はその程度によって用語が使い分けられる.それに伴う意識内容の異常(変容)によっても用語は異なってくる.したがって日本語を単純に欧語に対応させるのではなく,各用語の相互関係に留意して規定された用語であることが要望される.この点に配慮して,(1)意識混濁の英語用語をおおよそ段階順に配列し,それに対応する日本語用語を選定し,簡単な註釈を付した.(2)意識変容の内容とともに日本語用語を選定した.

    (1)意識混濁(clouding of consciousness)の程度により用いられる用語
    confusion 意識不鮮明(最も軽い意識混濁.錯乱としない)
    benumbness 昏蒙(軽い意識混濁で,注意力低下,無関心,自発性低下)
    drowsiness 傾眠(正常と病的との区別なく用いられる.次項参照)
    somnolence 傾眠(病的な場合にのみ用いる.放置すれば意識が低下する)
    hypersomnia 過眠(反対語として hyposomnia 不眠がある)
    lethargy 嗜眠(意識低下傾向が強いが,十分な刺激で覚醒し,適正でないが動作も可能)
    stupor 昏迷(意識低下傾向がさらに強く,強い刺激に短時間は覚醒し運動がある)
    sopor 昏眠(coma より軽く stupor に近い.強い刺激によってのみ覚醒しうる)
    semicoma 半昏睡(外界からの強い刺激に対する運動反応は残っている)
    coma 昏睡(外界からの強い刺激にも運動反応はない)
    (2)意識変容(alteration of consciousness)を伴うときの用語
    delirium せん妄(軽い意識混濁の上に精神運動興奮,幻覚,妄想などが加わる)
    acute confusional state 急性錯乱状態(急性に生じた delirium に近い状態)
    twilight state もうろう状態(意識混濁と共に意識の狭窄がある)
    oneiroid state
    (=dreamy state, on[e]irism)
    夢幻状態(夢遊状態に近い)
  12. dizziness, giddiness, vertigo:めまい[感],くらくら感,回転性めまい

     これらはともに日本語でめまい,眩暈(げんうん)を当てることが多いが,区別されるべきであるという意見がある.めまいと眩暈との字義的な区別はなく,両者は目が暗み,目がまわり,物の輪郭がぼけ,不安定感,もうろう感を呈することを指す(眩暈をめまいと読むのは当て読み).一方,英語での vertigo は回転の意味に発する用語で,周囲のものがまわってみえ,体の不安定感の強いものを指し,俗に用いられる dizziness はもう少し曖昧な不安定感,気の遠くなる感などを指している.しかし実際には英語で vertigoも dizziness も常に厳密に区別して用いられているとは限らない.

     すなわち日本語のめまい,眩暈はどちらかといえば dizziness に相当するが,vertigo も dizziness も広義には“めまい”とされうる.しかし vertigo を dizziness と区別し狭義に用いるなら,vertigo に回転性の意味をもたせて“回転性めまい”を当てるのが妥当で,dizziness を“めまい感”とすれば一層区別は明確になる.さらに dizziness を vertigo と区別することを強調するなら“浮動性めまい”を用いるのが妥当であろう.

     これらをまとめると次のごとくなる.

    vertigo
    1.(広義には)めまい,
    2.(狭義には)回転性めまい
    dizziness
    1.(広義には)めまい[感],
    2.(狭義には)浮動性めまい

     なお vertigo の前に形容詞が付くとき,狭義の回転性めまいでも,内容から理解されるので,以下のごとく“回転性”を省略しうるものとする.

    labyrinthine vertigo
    迷路性めまい
    paroxysmal vertigo
    発作性めまい
    peripheral vertigo
    末梢性めまい
    positional vertigo
    頭位性めまい
    postural vertigo
    頭位性めまい
    vestibular vertigo
    前庭性めまい

     英語用語の height vertigo は実際には“高所回転性めまい”でなく“高所めまい感”であり,height dizziness や height giddiness のことを指している.このような英語では vertigo を広義のものと解し,日本語はそれに則したものを選んだ.

     giddiness は体の平衡感覚や空間内での体位の感覚が失われ倒れそうになるのをいい,ふらふらする,くらくらするなどの感じを指す. dizziness と似ているが,狭義の vertigo とは異なる.日本語として“くらくら感”を当てた.

  13. dysesthesia, paresthesia:異常感覚,錯感覚

     dysesthesia と paresthesia の意味については本邦で長年の論議があり,その起源は古く前世紀の欧州にまでさかのぼる.一方,日本語の異常感覚と錯感覚については,前者が外界からの刺激によらずに自発的に生ずる自覚的な感覚の異常を指し,後者が外界から与えられた感覚刺激とは異なって感ずるのを指す,と理解されていることが多い.

     近年,英語圏では dysesthesia と paresthesia についてある程度の使用傾向があり,dysesthesia には上記の錯感覚的な,paresthesia には異常感覚的な意味合いで用いられることが多いといわれる.しかしその逆の説や,あるいは unpleasant paresthesia を dysesthesia というなど諸説がある.いずれをとっても絶対的なものとはいい難い.

     もし paresthesia に日本語の異常感覚を当てるとすると,そのためには dysesthesia に錯感覚を当てることになる.用語全般を眺めるとき,para- に“錯”を与えることはあるが,dys- に“錯”を当てることは従来の用法にはみられない.一方,文字自体のもつ語義からみると,dysesthesia には“異常”感覚を,paresthesia には“錯”感覚を対応させるのが妥当のように思われる.

     以上から理解されるように,これらの欧語と日本語との間に適切な対応を見出し難く,それがまたこれまでの長い論議の歴史でもあった.両者を強いて対応させることにいささか無理があり,上記のいずれの組み合わせを採用しても強い反論が生じて,その使用法が定着するとは思われない.

     このような背景からこれら欧和両語の取り扱いについては,次のように対処するものとした.

    1. (1)dysesthesia, paresthesia に対し異常感覚,錯感覚のいずれかを対応させることはしない.
    2. (2)日本語独自として異常感覚,錯感覚を用いる.前者は自発的に生ずる異常な自覚的感覚を指し,後者は外界から与えられた刺激とは異なって感ずる他覚的感覚(知覚)をいう.
    3. (3)日本語の論文には dysesthesia, paresthesia(カタカナ書きも含む) の使用を差し控える.日本語で繁用される“しびれ感”にはしびれ感または異常感覚を用いる.なんらかの特殊事情により dysesthesia, paresthesia を使用するときは誤解を招かないようにその定義を必ず明記する.
    4. (4)英語(欧語)用語の中でこれらが形容詞として用いられているときは,その感覚内容によって異常感覚性,錯感覚性などの日本語が与えられる.
    5. (5)欧文雑誌,欧文抄録などの記述には当該誌の慣習に従って dysesthesia, paresthesia を使用する.なお和文雑誌の英文抄録での“しびれ感”に,強いて dysesthesia や paresthesia を用いず,numbness, tingling, buzzing, picking, formication など誤解されることの少ない語を用いるのも一法である.
  14. familial, hereditary, isolated, sporadic:家族性,遺伝性,散発性,孤発性

     これらは,しばしば誤用されるが,下記の意義のもとに使用される.

    1. (1)familial 家族性:家族内に同病が発現するものをいう.遺伝性とは限らない(例:過去の結核など).したがって遺伝性が明らかでない場合には家族性発現として取り扱うのが妥当である.過去において家族性といわれ,今日では遺伝性の明らかになったものに,そのまま名称が用いられている場合がある(例:familial amyloid polyneuropathy).
    2. (2)hereditary 遺伝性:伴性劣性,常染色体優性など遺伝性の明らかなものである.ただし遺伝形式は決定していないが遺伝性の明らかなものにも使用されうる.しかし遺伝性であることが明らかでない場合(すなわち家族性)にこれを用いるのは妥当でない.
    3. (3)isolated 散発性:非遺伝性の疾患や発病に用いられる.次項の“sporadic 孤発性”がこの “isolated 散発性”を指して誤用されていることが多い(例:sporadic ALS, sporadic OPCA). 誤解を避けるには“non-hereditary 非遺伝性”とするのもよい.
    4. (4)sporadic 孤発性:疾患そのものは遺伝性であるが,患者がその家族,家系に独り認められるに過ぎない場合に用いられる.sporadic が isolated の意味と誤解され(前項参照),非遺伝性を指すものとして誤用されていることがある(例:sporadic disease).
  15. fasciculation:線維束性収縮

     従来 fasciculation とその近接用語の日本語は次のように用いられていた.

    1 fasciculation 線維束性攣縮または線維束性収縮
    2 fascicular contraction 線維束性収縮
    3 fibrillation 線維性収縮
    4 fibrillary contraction 線維性収縮

     1と2は同義であり,3と4は同義である.1 2は臨床的用語,3 4は電気生理学的用語であるが,fasciculation にのみ攣縮(以前は搦)が用いられることは語の統一性を欠く.さらに本来の攣縮(spasm) との混用,誤用の原因にもなりかねない [別項30.spasm 参照].攣縮のほうが多く使用されてはいたが,以上の諸点から fasciculation を線維束性収縮に統一した.

  16. finger, toe:指,趾

     解剖学用語では手のゆびも足のゆびもすべて指で表記し,手の指,足の指と書き訓読みする.臨床神経学ではこの方法によると不都合が生ずる.手のゆび(finger) は“指”を,足のゆび(toe) は“趾”をもって表記することとした(趾は実在する漢字).発音については前後の関係で音読みと訓読みの両様(指は〔シ〕,〔ユビ〕,趾は〔シ〕,〔アシノユビ〕(近世訓読)と発音)がありうるが,基本的には音読みとした(例1).ただし前後に付く他の用語との関係で訓読みとなりうる(例2).また前後に付く語との語呂により“手指〔シュシ〕”,“足趾〔ソクシ〕”と重複表現(音読)することもある(例3).

    (例1) thumb 母指 〔ボシ〕
    thumb reflex 母指反射 〔ボシハンシャ〕
    big toe 母趾 〔ボシ〕
    musculus extensor indicis〈L〉 示指伸筋 〔ジシシンキン〕
    hypothenar [eminence] 小指球 〔ショウシキュウ〕
    (例2) finger-finger test 指指試験 〔ユビユビシケン〕
    finger-thumb reflex 指母指反射 〔ユビボシハンシャ〕
    (例3) finger agnosia 手指失認 〔シュシシツニン〕
    toe phenomenon 足趾現象 〔ソクシゲンショウ〕
  17. hemi-:半[側],片[側]

     hemi は本来“半”であるが,日本語には半[側]と片[側]とがある.中央で区分される左右,上下などの半分には半[側]が妥当である(例:半盲,大脳半球).左右の片方にあるが,中央での区分が明確でないものに片[側]が妥当である(例:片麻痺).中央での境と無関係な場合は一側 unilateral を用いるのが妥当でこれらとは一応区別される(例:一側上肢).なお,医学用語では音読みが多いので片側の読みは〔ヘンソク〕とし,片麻痺は〔ヘンマヒ〕と読むものとする.

  18. -ia, -us, -y

     -us はその症候または所見をいい,-ia, -y はそれをもった疾患またはその病態を示すのが通例である.したがって,原則として前者には症を付けず後者には症が付く(例1).しかし前者でも語呂のため症の付くものがあり [凡例IV‐3‐(1) 参照] 日本語では同一形となるが,英語では両者間で意義が異なることに留意する(例2).

    (例1) hypertonus 筋緊張亢進
    hypertonia 筋緊張亢進症
    microgyrus 小脳回
    microgyria 小脳回症
    myoclonus ミオクローヌス
    myoclonia(-ny) ミオクローヌス症
    (例2) hydrocephalus 水頭症
    (水頭をきたしている状態)
    hydrocephaly 水頭症
    (水頭をきたしている疾病,疾病概念)
  19. index, quotient, scale, score:指数,商,尺度,評点

     原則として次のように対応させた.

    (1)index……指数
    (例)
    Ayala index(=quotient) アヤラ指数
    Cornell medical index   コーネル健康調査指数
    (2)quotient……本来は商であるが,指数もありこのほうが多い.
    (例)
    cerebral respiratory quotient 脳呼吸商
    Ayala quotient(=index)   アヤラ指数
    intelligence quotient(IQ)  知能指数
    (3)scale……尺度
    (例)
    Japan Coma Scale       日本式昏睡尺度
    Wechsler intelligence scale ウェクスラー知能評価尺度(×指数)
    (4)score……評点(得点もありうるがマイナス点のものもあるので)
    (例)
    Apgar score    アプガール評点
    disability score 機能障害評点
  20. language, -lalia, speech:言語,発語,発話

     language, -lalia, speech は一般的に言語とされていることが多い.しかし臨床的にはしばしば話し言葉とそれ以外の言葉(思考,書字による言葉など)とのとる態度は異なり,区別を要することがある.言葉全体(内言語,外言語)を包括するときは“言語”を用い,話し言葉に限るときは“発語”または“発話”を当ててこれを区別した.

    (例) delayed speech
    (language)
    言語(×発話)発達遅滞
    inner speech 内言語
    scanning speech 断綴性発語(×言語)
    fluency of speech 発話(×言語)の流暢性
    paralalia 錯発語(×言語)
    bradylalia 発語(×言語)緩慢
  21. myotonic, tetanic, tonic:筋強直性,強縮性,緊張性,強直性

     いずれも筋緊張に関連した言葉であるが,直訳ではその内容を正しく表現できないことがあり,日本語を使い分ける必要がある.

    (1)myotonic:……筋強直性
    直訳的には筋緊張性であるが,実際には病的であるので(3) tonic の 1 との混同をさける必要がある.
    (例)
    myotonic dystrophy 筋強直性ジストロフィー(×筋緊張性)
    (2)tetanic:……強縮性〔キョウシュクセイ〕
    破傷風でもみられるが,必ずしも破傷風性を意味しない
    (例)
    tetanic contraction 強縮性収縮
    (3)tonic:次の二つの場合がある.
    1 正常かまたは一般的なとき……緊張性
    (例)
    tonic contraction 緊張性収縮
    2 病的なものを指すとき……強直性〔キョウチョクセイ〕
    (例)
    tonic convulsion 強直性痙攣
  22. oculo-:眼球~,~眼球

     oculo- という用語には一概に眼球~とすると内容的に誤解を生ずるものがある.眼球~とするのが妥当なもの(例1)と,~眼球とするのが妥当なもの(例2)とがあり,後者は直訳すると意味が通じない.

    (例1)
    oculogyric crisis  眼球回転発作
    oculomotor apraxia 眼球運動失行
    (例2)
    oculocephalic reflex  頭位変換眼球反射(×眼球頭部反射,×眼頭反射)
    oculopharyngeal reflex 咽頭眼球反射(×眼球咽頭反射,×眼咽頭反射)
  23. -oma, tumor:腫,腫瘍

     いずれも腫瘍(腫瘤)を指すが,該当する日本語の語尾は -oma では~腫,~tumor では~腫瘍とするのを原則とした.

    (例)
    intracerebral hematoma 脳内血腫
    glioblastoma multiforme 多形膠芽腫
    jugular glomus tumor  頸静脈グロムス腫瘍
    tumor of spinal cord  脊髄腫瘍
  24. perception, sensation, sense,sensory:知覚,感覚
    (1)感覚と知覚の区別
     感覚とは sensation, sense に相応し,光・音・機械的刺激などに対応する感覚受容器からの情報を指す.

     知覚とは perception に相応し,感覚受容器官を通じて伝えられた情報から,外界の対象の性質・形態・関係や,体内の諸臓器・器官の状態を感知分別することである.ただし,perception は“認知”とされることもある.

     esthesia は第一義は perception と同義で,第二義は sensibility と同義であり,感受性を指す.

     以上の語義的な理解の上に立って,英語と日本語との対応を以下のようにとりきめた.
    1. sense, sensation, sensory は原則として“感覚”とする. sense と sensation の英語での使い分け方は語呂,慣習によることが多いので日本語では区別しない.
    2. perception のときは“知覚”または“認知”とし,前後関係で使い分ける.
    3. sensibility は感覚[能],sensitivity は感受性とする.
    (2)感覚,感,覚の使い分け
     ~sense, ~sensation, ~sensibility などに対応する感覚の取り扱いは次の指針によった.
    1. 抽象的,概念的な感覚では感を省略しない(例:複合感覚,深部感覚,運動感覚,体性感覚; それぞれ複合覚,深部覚,運動覚,体性覚とはしない)
    2. 自発性,自覚的なものは感で終わる(例:掻痒感,灼熱感).
    3. 一般体性感覚での,要素的,具体的な感覚では感の字を省略してもよい.したがって [感] とする(例:冷[感]覚,痛[感]覚,触[感]覚).ただし,後に別の用語が続くときは [感] が省略される(例:hypoalgesia 痛[感]覚鈍麻 → 痛覚鈍麻).
    4. 視,聴,味,嗅の特殊感覚では感の字をはずす(例:視覚,光覚,聴覚,味覚,嗅覚).
  25. peroneal:腓骨部,腓骨神経,腓骨型 (付:humeral)

     腓骨は fibula とも perone ともいわれるが前者が常用される.これに対し形容詞は peroneal が多用され,かつ次のいくつかの意味をもっている.1 腓骨そのもの,2 下腿の外側部,3 同部の諸筋またはそれを支配する神経,すなわち peroneal は明確に一つの限定されたものでなく,日本語の表現に当たっては,その内容から用語を選定しなくてはならない.

    1. (1)peroneal muscular atrophy:Charcot-Marie-Tooth 病の別名で peroneal type of muscular atrophy(Tooth) が短縮したものである.筋萎縮は腓骨筋群に限るものでなく伸筋群(脛骨筋群)にもある.したがって腓骨筋萎縮症は適切でなく,下腿外側部筋萎縮症または腓骨部筋萎縮症が妥当で,後者を採用した.ただし,英和ともあまり好適な用語とはいい難い.
    2. (2)peroneal paralysis:腓骨神経群の障害による腓骨筋群,前脛骨筋群などの麻痺を指す.別称として paralysis of peroneal nerves のごとく複数形でも表現されるように,腓骨神経群の中の特定の神経(総,深,浅)を限定し難いので腓骨神経麻痺と従来のものを踏襲した.
    3. (3)scapuloperoneal amyotrophy:(1)と同様に特定の筋(または筋群)を指すのではなく,肩甲部と腓骨部を指すので,肩甲腓骨筋萎縮症ではなく肩甲腓骨型筋萎縮症とするのが妥当である.なお scapulohumeral atrophy 肩甲上腕型筋萎縮症も同類である.
  26. pseudo-:偽性

    pseudo は日本語として“仮”,“偽”,“擬”が当てられる.医学用語には“仮性”と“偽性”の両者が不統一に用いられてきた(例:仮性球麻痺,偽性脊髄癆).“仮”は真ならざる,かりの意である.“偽”はあざむき,いつわるの意で,一見そのようにみえるものに用いられる.日常語では一方の語を他方の語をもって替え難いものがあるが(例:仮説,偽造),神経学用語では慣習や語呂により使い分けられていることが多く,pseudo は似て非なるものの意味であるから“仮性(かり)”よりは“偽性(にせ)”のほうが妥当と考えられ,また偽性と称するもののほうが多いので,“偽性”に統一した.神経学用語の中でよく使用されてきた“仮性球麻痺”,“仮性硬化症”は長い慣習があるので各用語の註に付記した.

  27. receptor:受容体,受容器

     受容体と受容器は不統一に用いられていた.神経伝達物質の receptor は受容体とし,その他感覚などの receptor は受容器として統一した.

    (例)
    iadrenergic receptor アドレナリン作動性受容体
    gravireceptor     重力受容器
  28. rigidity:硬直,強剛,固縮,強直

     rigidity は筋の受動運動での固さを指す総称である.日本語では一般的に“硬直”が用いられる. rigidity にはいろいろな種類があり,欧語では形容詞により特徴が示される(例:cadaveric rigidity 屍体硬直,decerebrate rigidity 除脳硬直).英語(欧語)の rigidity は語義の幅が広く痙縮 spasticity もかつては spastic rigidity といわれたことがある.一方,本邦では parkinsonian [muscular] rigidity にその性質の特殊性から“筋強剛”が用いられていた.その後,電気生理学の発展に伴い,筋電図所見上で spasticity 痙縮に対峙して rigidity に“固縮”が用いられた.これが parkinsonian [muscular] rigidity にも拡大されて筋固縮と称されたが,spinal animalなど実験動物にみられる rigidity 固縮と異なるなど,固縮を parkinsonian rigidity にも当てるのは硬さの性質からみて好適でないという意見がある.

     このように英語(欧語)では rigidity で硬さを総称し形容詞でその性質を区別しているのに引き替え,日本語では硬さの性質を含めて硬直,強剛,固縮,強直など各種の用語がある.この背景を理解し,日本語本来の用語の豊かさを活用し,英語の各種 rigidity の性質に対応した日本語用語を選ぶこととした.

     rigidity:1.硬直,2.強剛,3.固縮,4.強直(前に置かれる特徴語によって使い分けられる)

    (例1) clasp-knife rigidity 折りたたみナイフ様硬直
    decerebrate rigidity 除脳硬直
    nuchal rigidity 項部硬直(髄膜炎における)
    spastic rigidity 痙縮[性硬直]
    (例2) lead-pipe rigidity 鉛管様強剛
    neck rigidity 頸部強剛(パーキンソン病における)
    parkinsonian [muscular] rigidity パーキンソン[筋]強剛
    parkinsonian [muscular] rigidity パーキンソン[筋]強剛
    (例3) alpha(α)rigidity アルファ固縮
    gamma(γ)rigidity ガンマ固縮
    spinal rigidity 脊髄性固縮(実験動物における)
    (例4) absolute pupillary rigidity 絶対性瞳孔強直
  29. senile:老年,老年性

     senile に当たる日本語は老年,老年性,老年期,老人,老人性とまちまちに使用されてきた.年齢的要因により起こる病的現象はすべて老年または老年性(性は別記の原則に従う)とした.成人にみられることのない老人そのものについての事項(例:老人恐怖,老人愛)は神経学用語にほとんど見られない.

    (例)
    senile dementia 老年痴呆  (×老年期痴呆,×老人性痴呆)
    senile atrophy 老年性萎縮 (×老人性萎縮)
    senile insanity 老年精神病 (×老年期精神病)
    senile plaque  老年斑   (×老人斑)
  30. spasm[us], spasticity:攣縮,痙縮

     spasm は従来痙攣と訳されていたが,筋がある時間病的に収縮を持続している状態を指し,その結果生じた運動効果そのものに対する呼称とは区別される.したがって,痙攣時の筋収縮は spasm の状態にあるが,痙攣 convulsion そのものとは区別される必要がある. spasm および近縁用語を次のごとく整理した.

    1. (1)spasm:痙攣とせず,攣縮とした.
    2. (2)spasticity:痙性とせず,痙縮とした.
    3. (3)spasmodic:従来しばしば痙性が当てられていたが,spastic とは異なるので spasm にならい攣縮性とした(例:spasmodic dysphonia 攣縮性発声障害).
    4. (4)spastic:spasticity の形容詞であり,痙縮性または単に痙性とする.
    5. (5)spasm の例外:欧語で習慣的に spasm が用いられているが,内容的にはそれと異なるものがある.それらはその内容に従って日本語用語を選定した(例:nodding spasm 点頭発作,infantile spasm 点頭てんかん,torsion spasm 捻転ジストニー).
  31. test:検査,試験

     test は検査または試験に該当する.それらはそれなりの意義をもっていて多くの場合は妥当に用いられている.しかし一部には無秩序に使用されており,またされる可能性があるので,基準を明示した.“test”以外の検査についても言及した.

    1. (1)検査:1 主に検査室で,大型の機械や複雑な道具を用いて行うもの.
      (例)
      optokinetic pattern test 視運動性眼振パターン検査
      Kohs block design test  コース立方体検査
         2 概念的,総括的な呼称の場合.
      (例)
      intelligence test 知能検査
         3 検査に該当するものとして test 以外に -metry, -graphy などがある.
      (例)
      audiometry   聴力検査「法」
      nystagmography 眼振検査「法」
      ophthalmoscopy 検眼鏡検査「法」
      註:test 検査には“法”を付けて用いることがある.
    2. (2)試験:すべて英語は test である.
         1 主にベッドサイドで,機器などを用いず,あるいは小道具を用いて行うもの.
         2 概念的でなく,具体的である.
      (例)
      arm-dropping test 腕落下試験
      caloric test     温度眼振試験
      Queckenstedt test クエッケンシュテット試験

VI.見出し語の配列

  1. 欧和編:アルファベット順.
    1. (1)語と語の間(スペース)をアルファベットより優先して配列した.
      (例)
      ablatio retinae〈L〉
      ablation      の順
    2. (2)[ ]の中は読んで配列した.
    3. (3)-ハイフン,( )の中は無視して配列した.
  2. 和欧編:五十音順.
    1. (1)同音の用語が複数あるときは次のように配列した.

       1 ヨミガナが全く同じときは,欧語用語のアルファベット順に配列した.

      (例)
      毛様体 corpus ciliare〈L〉
      網様体 formatio reticularis〈L〉  の順

       2 濁音は清音の後に配列した.

      (例)
      肢痛 → 耳痛 の順
      外枝 → 外耳 の順
    2. (2)長音(音引き)は,読まないものとして配列した.
      (例)
      クールー斑 → クルハンで配列
    3. (3)[ ]の中は,これを読んだ場所と読まない場所の2か所に掲出した(ただし,配列場所があまり離れないときは,[ ]の中を読んだ場所のみとした).
      (例)
      [完全]麻痺 → カンゼンマヒ
              マヒ    の2か所に掲出
    4. (4)「 」の中は読んで配列した.

VII.和欧編での欧語配列

 同一日本語用語に欧語が複数ある場合.

  1. 英語のみの場合はアルファベット順に配列した.
    (例)
    下顎反射 chin reflex, jaw jerk, jaw reflex, mandibular reflex
  2. 英語とそれ以外の欧語が複数ある場合は,英語 → ラテン語〈L〉→ ギリシア語〈Gr〉→ フランス語〈F〉→ ドイツ語〈G〉の順に配列した.

VIII.記号の説明

〈 〉 1)英語以外の欧語を表す.
〈L〉→ ラテン語,〈Gr〉→ ギリシア語,〈F〉→ フランス語,〈G〉→ ドイツ語

2)形容詞を表す.
〈adj〉→ 形容詞
( ) 1)見出し語については,前置の文字を( )内の文字に置き換えうることを示す.
例:
acrocephaly(-lia) → acrocephaly, acrocephalia
algesic(algogenic) substance → algesic substance, algogenic substance
遮断物質(薬) → 遮断物質,遮断薬
喘(あえ)ぎ呼吸 → 喘ぎ呼吸,あえぎ呼吸

2)略語,同義語,註釈を示す.
[ ] [ ] の文字を用いても,用いなくてもよい.
例:
abductor [muscle] → abductor muscle または abductor
chronologic[al] age → chronological age または chronologic age
神経芽[細胞]腫 → 神経芽細胞腫 または 神経芽腫
「 」 一つの欧語に対して,日本語で「 」内の文字を用いるときと,用いないときで意義が異なる[凡例IV‐3 参照].
例:aminoaciduria アミノ酸尿「症」→ アミノ酸尿 と アミノ酸尿症
〔 〕 日本語用語中に挿入されているものは,読み方の難しいまたは紛らわしい漢字のヨミガナを示す.
例:間代〔カンタイ〕,脆〔ゼイ〕弱性
同義語.記号の後に示された同義語があることを示すが,次の場合がある.

1)A(=B), B(=A); AとBとほぼ対等で同様に用いられる.ただし,AとBとに対応する日本語が同じとは限らない.
例:alexia without agraphia 失書を伴わない失読(=pure alexia)
  pure alexia 純粋失読(=alexia without agraphia)

2)A(=B), B(=なし); Aも用いられるが主としてBが用いられる.Bに同義語を付記しないことによりそれを示している.同義語を知るにはBの日本語から和欧編を利用する.
例:atactic gait 運動失調性歩行(=ataxic gai)
  ataxic gait 運動失調性歩行
→ ← 指している用語を参照せよ.
⇒凡例 凡例を参照せよ.
* 和欧編と略語編でこの記号を付した欧語には,欧和編で註釈があることを示す.
例:
和欧編 → 感覚上皮 neuroepithelium*, sensory epithelium
欧和編 → neuroepithelium 感覚上皮(内耳,鼻粘膜,舌粘膜にある感覚受容の特殊な上皮; =neuroepithelial cells, neurepithelium)
→ sensory epithelium 感覚上皮(註釈はない)