臨床神経学

症例報告

右中大脳動脈領域広範梗塞により幻触と妄想を来した1例

原田 しずか1)* , 稲富 雄一郎1), 松田 実2)

Corresponding author: 済生会熊本病院脳神経内科〔〒861-4193 熊本市南区近見5-3-1〕
1) 済生会熊本病院脳神経内科
2) いずみの杜診療所

症例は64歳,女性.右中大脳動脈領域の広範梗塞により左片麻痺と左半側空間無視を来し,血栓回収療法と開頭外減圧術を施行した.意識回復に伴い,「足元に長女がおり,足に触れる」と訴えた.この異常体験には直接視覚で確認することができない「長女」の身体的特徴や服装の情報が加わっており,「長女が二人いる」という誤った思考も伴った.またこの体験が異常であることを認識しながら,そのことへの強い信念を払拭できなかった.患者の異常体験は幻触と妄想の両者で構成されていたと推測した.本例では幻触に関連し,対象が患者の近親者に限定された妄想を認めた.患者の内省を詳細に聴取できた点で臨床的に重要な症例であると考えられた.
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(臨床神経, 62:39−43, 2022)
key words:脳梗塞,妄想,幻触,右中大脳動脈

(受付日:2021年7月20日)