臨床神経学

依頼総説

腸内環境と多発性硬化症

三宅 幸子1)*, 能登 大介1)

Corresponding author:順天堂大学大学院医学研究科免疫学講座〔〒113-8421 東京都文京区本郷2-1-1〕
1) 順天堂大学大学院医学研究科免疫学講座

腸内環境は様々な疾患との関連が注目されている.多発性硬化症(multiple sclerosis,以下MSと略記)の動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎では,無菌飼育下で病態が軽減し,抗生剤投与により腸内細菌を変化させると病態が影響を受ける.Th17細胞を誘導するセグメント細菌は病態を悪化させる一方,制御性T細胞の増殖に関与するBacteroidesは多糖類を介し,Clostridiumは短鎖脂肪酸(short chain fatty acid,以下SCFAと略記)を介して病態を抑制することがわかってきた.MSの腸内細菌叢解析も行われ,SCFA産生菌の減少などが報告されている.SCFAを含む腸内細菌代謝物は,免疫細胞のみならずグリア細胞にも影響を与え,病態形成に関与している可能性がある.
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(臨床神経, 61:583−587, 2021)
key words:多発性硬化症,腸内細菌,実験的自己免疫性脳脊髄炎,短鎖脂肪酸

(受付日:2021年1月21日)