臨床神経学

症例報告

先天性アンチトロンビン欠損症による脳静脈洞血栓症を併発した多発性硬化症の1例

金谷 雄平1), 高松 和弘1), 下江 豊1), 仁井見 英樹2), 北島 勲2), 栗山 勝1)*

Corresponding author: 脳神経センター大田記念病院脳神経内科〔〒720-0825 広島県福山市沖野上町3-6-28〕
1)脳神経センター大田記念病院脳神経内科
2)富山大学医学部附属病院検査部

症例は25歳の男性.6歳で視神経炎,12〜16歳で3回の大脳白質脱髄巣が出現した再発寛解型多発性硬化症(multiple sclerosis;MS)である.25歳で,嘔吐を伴う胃腸炎に罹患後,脳静脈洞血栓症(cerebral venous sinus thrombosis;CVT)を発症し,腰椎穿刺で悪化した.アンチトロンビン(AT)の低下を認め,AT遺伝子エクソン5番目のコドン359のCGAがTGAに置換したナンセンス変異のAT欠損症ヘテロ接合体であった.MSにCVTが合併した17例が過去に報告されており,腰椎穿刺と高容量メチルプレドニゾロン(mPSL)投与がCVTを誘引した症例が多い.本例はmPSL治療は行ってないが,AT欠損症に,高ホモシステイン血症,感染,腰椎穿刺が加わり発症増悪したと推測した.
Full Text of this Article in Japanese PDF (730K)

(臨床神経, 56:248−254, 2016)
key words:多発性硬化症,アンチトロンビン欠損症,脳静脈洞血栓症,慢性脳脊髄循環不全

(受付日:2015年8月17日)