臨床神経学

症例報告

胃全摘術後23年後に末梢神経障害,脊髄症,小脳失調,潜在的視神経症を呈した銅欠乏の1例

稲葉 明子, 鳥居 孝子, 篠田 紘司, 山ア 亮, 大八木 保政, 吉良 潤一

Corresponding author: 九州大学大学院医学研究院神経内科学〔〒812―8582 福岡市東区馬出3―1―1〕
九州大学大学院医学研究院神経内科学

症例は61歳男性である.37歳で胃癌のため胃全摘を施行.60歳より下肢異常感覚が出現,61歳より歩行時のふらつきを自覚.神経学的に左上下肢の腱反射亢進,両下肢の失調,両下肢の異常感覚,Th12以下の触覚低下,両下肢の全感覚低下をみとめた.ロンベルグ徴候は陰性.電気生理学的検査では両側錐体路・後索障害,両下肢末梢神経障害,潜在的視神経障害をみとめた.血清銅10μg/dlと著明な低下をみとめ,銅欠乏による末梢神経障害,脊髄症,視神経症と診断し,銅補充療法を開始後,症状は改善した.本例は胃全摘術後23年の経過でこれらの神経障害を発症しており,胃切除後長期経過における神経障害では銅欠乏も考慮すべきである.
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(臨床神経, 51:412−416, 2011)
key words:銅欠乏,ビタミンE欠乏,末梢神経障害,脊髄症,胃切除後

(受付日:2010年11月21日)