臨床神経学

症例報告

右中心前回中下部梗塞により失文法を呈した1例

前田 憲吾1)2)*, 伊藤 隆洋1), 小川 暢弘1)2), 中島 敦史1), 真田 充1), 川合 寛道1)

Corresponding author:滋賀医科大学神経内科〔〒520-2192 滋賀県大津市瀬田月輪町〕
1)滋賀医科大学神経内科
2)現 国立病院機構滋賀病院神経内科

症例は75歳右きき男性で,突然の話しづらさのため受診した.軽度の中枢性左顔面麻痺以外,身体所見に異常なかった.発語努力や構音の歪みはなく錯語もなかったが,自発語は助詞の省略や誤用をともなう電文体様であった.きき手交換歴や左・両手ききの家族歴はない.MRIで右中心前回中下部の限局性新鮮梗塞をみとめた.WAIS-Rの言語性IQ 108,動作性IQ 100,総合IQ 117で,知的レベルの低下はみとめなかった.標準失語症検査の漫画説明では,口頭・書字ともに助詞誤用があった.助詞挿入課題249問中1割で誤使用があり,能動・受動態変換課題でも成績は不良であった.本例は交叉性失語症における失文法症状発現に右中心前回中下部が重要な部位であることを示唆している.
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(臨床神経, 49:414−418, 2009)
key words:交叉性失語症, 失文法, 電文体様発話, 脳梗塞, 中下部中心前回

(受付日:2008年11月28日)