臨床神経学

症例報告

胸背部痛のない胸部大動脈解離の頸動脈進展にともなう脳梗塞の病態評価に頸部血管エコー検査が有用であった1例

前田 亘一郎, 矢坂 正弘, 湧川 佳幸, 緒方 利安, 岡田 靖

Corresponding author:国立循環器病センター内科脳血管部門〔〒565-8565 大阪府吹田市藤白台5-7-1〕
国立病院機構九州医療センター脳血管センター・臨床研究センター脳血管神経内科

症例は63歳の男性である.一過性の意識障害と左不全片麻痺で救急搬送され,来院時(発症110分後)は左下肢軽度脱力のみに改善,胸背部痛や頸部痛はなかった.頭部MRIで右中大脳動脈領域に多発性梗塞巣をみとめた.頸部血管エコーで腕頭動脈から右内頸動脈の血管壁が非全周性に層状に肥厚し,血管内腔の著明な狭小化をみとめ動脈解離と診断した.頸・胸腹部CTで胸部大動脈解離の右内頸動脈への進展と診断した.大動脈解離をともなう脳梗塞ではrt-PA静注療法は禁忌で,胸背部痛や頸部痛をともなわない胸部大動脈解離の頸動脈進展例を経験したことから,胸背部痛や頸部痛の有無にかかわらずrt-PA投与前に頸部血管エコーをおこなうべきと考える.
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(臨床神経, 49:104−108, 2009)
key words:脳梗塞, 胸部大動脈解離, 総頸動脈解離, 胸部痛, 背部痛, 頸部血管エコー

(受付日:2008年7月8日)