臨床神経学

第50回日本神経学会総会

<日本神経学会2008年度学会賞受賞者招待講演>
脊髄小脳変性症の分子病態機序の解明

小野寺 理

新潟大学脳研究所生命科学リソース研究センター脳疾患リソース解析部門分子神経疾患資源解析学分野〔〒951-8122 新潟市旭町通1-757〕

神経細胞の機能を維持するために,神経細胞の内部環境を維持する品質管理機構が重要である.とくに蛋白質と核酸の品質管理機構と神経変性疾患との関係が注目されている.代表的な優性遺伝性脊髄小脳変性症であるポリグルタミン病では,蛋白質の品質管理機構の異常が推察されている.一方,劣性遺伝性脊髄小脳変性症では核酸品質管理機構の異常が推察されている.神経細胞のDNAは活性酸素などにより常に障害をうけ損傷している.損傷部の3'末断端はリン酸基,ホスホグリコール酸基または不飽和アルデヒド基となっており,修復のためには,水酸基に置換(エンド・プロセッシング)される必要がある.われわれは劣性遺伝性脊髄小脳失調症の原因遺伝子アプラタキシンの生理機能を検討し,この蛋白質がin vitroにおいて3'末断端のリン酸基およびホスホグリコール酸基を除去し水酸基とする活性を持ち,これにより損傷部のエンド・プロセッシングに関与していることを示した.このことから,本症の病態機序としてDNA損傷の蓄積の関与を示唆し,脊髄小脳変性症での核酸品質管理機構の重要性を示した.
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(臨床神経, 49:750−752, 2009)
key words:ポリグルタミン病, アプラタキシン, 一本鎖DNA切断, 品質管理機構

(受付日:2009年5月20日)