臨床神経学

短報

サリドマイド単独療法中に発症した脳梗塞の1例

伊藤 康幸1), 森 麗1), 米村 公伸1), 橋本 洋一郎1), 平野 照之2), 内野 誠2)

1)熊本市立熊本市民病院神経内科〔〒862-8505 熊本県熊本市湖東1丁目1-60〕
2)熊本大学大学院医学薬学研究部神経内科学分野

多発性骨髄腫に対するサリドマイド療法中に発症した脳梗塞の1症例を経験した.症例は74歳の男性である.IgG-λ型多発性骨髄腫に対してメルファラン・プレドニゾロン療法が導入され,その後サリドマイド100 mg/日単独療法中,左上下肢の脱力を自覚し当科に入院した.頭部MRI拡散強調画像で左半卵円中心および右放線冠に多発散在性高信号域がみられた.頸部血管エコー,経胸壁心エコー,ホルター心電図では明らかな塞栓源なく,経食道心エコーで卵円孔開存症がみとめられ,二次予防にワルファリンを導入した.サリドマイド療法中に発症する脳梗塞は,卵円孔開存を介する深部静脈血栓由来の奇異性脳塞栓症のばあいがあると考えられ,脳梗塞発症時に卵円孔開存症など右左シャントの有無や,深部静脈血栓症の有無を確認することが重要と考えられた.

(臨床神経, 47:593−596, 2007)
key words:多発性骨髄腫, サリドマイド, 卵円孔開存症, 深部静脈血栓症, 奇異性脳塞栓症

(受付日:2007年2月1日)