臨床神経学

症例報告

人工呼吸器装着中に予期せぬ呼吸困難を呈した筋萎縮性側索硬化症の1例―気管内肉芽腫症と気管吸引操作における問題点―

石田 志門, 木村 文治, 細川 隆史, 佐藤 智彦, 古玉 大介, 杉野 正一

大阪医科大学第一内科〔〒569-0801 大阪府高槻市大学町2-7〕

症例は46歳の男性である.筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)と診断され,初発から10カ月の経過で人工呼吸器装着状態となった.その6カ月後に4度の意識消失発作をおこし,人工呼吸器内圧が上昇し酸素飽和度が低下,気管より血痰が吸引されたため当科に入院した.気管内視鏡にて気管カニューレ先端に生じた肉芽とそれによる気道閉塞と診断した.気管内サイズの長いカニューレに変更し腫瘤を圧迫するも,ふたたびカニューレ先端部に肉芽腫が出現した.そのため,気管内ステントを装着し気道を確保し,呼吸状態は改善し人工呼吸器内圧は安定した.気管肉芽腫の発生には,気管吸引手技による気道損傷が関与した可能性が考えられた.気管内肉芽腫症は人工呼吸器管理下の突然死を引きおこしかねない病態であり,本例のようにALS患者で長期の人工呼吸器装着が必要となるばあいは,気管吸引をふくめた呼吸管理を検討するうえで,教訓的な症例と考えられた.

(臨床神経, 47:585−588, 2007)
key words:amyotrophic lateral sclerosis, tracheostomy, tracheal granulation, tracheal stenting, endotracheal suction

(受付日:2007年3月26日)