臨床神経学

症例報告

本態性振戦にパーキンソン振戦が合併した1例

井上 学, 美馬 達哉2), 小島 康祐, 里井 斉, 牧野 ふみ, 神田 益太郎, 柴崎 浩1)

医仁会武田総合病院神経内科〔〒601-1495 京都市伏見区石田森南町28-1〕
1)同 病院顧問
2)京都大学医学研究科高次脳機能総合研究センター〔〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町54〕

症例は78歳の女性である.20歳台後半より動作時に両手の震えをみとめ,震えは非進行性であった.76歳より歩行障害と静止時振戦が出現した.家族歴で両親と弟に手の振戦あり.神経学的には仮面様顔貌,頸部固縮,両上肢左優位に歯車様固縮,小刻み歩行と後方突進をみとめ,頭部振戦,両上肢左優位に静止時,姿勢時および動作時に振戦をみとめた.以上から本態性振戦とパーキンソン病の合併と診断した.加速度計と表面筋電図の周波数解析では,静止時振戦のピーク周波数は4.3 Hz,姿勢時振戦のそれは5.2 Hzであり,共に対側中心部脳波との間にコヒーレンスを示した.振戦部位への加重負荷により,5.2 Hzの周波数パワーと脳波―筋電図コヒーレンスが減少して,4.3 Hzのそれらが顕著になった.本症例の姿勢時振戦は2種類のことなった中枢性振戦が合併したものであり,加重負荷によって2つが分離したものと考えられる.

(臨床神経, 47:413−418, 2007)
key words:本態性振戦, パーキンソン病, 姿勢時振戦, 静止時振戦, 脳波―筋電図コヒーレンス解析

(受付日:2006年6月10日)