臨床神経学

症例報告

フェンタニル中毒後に遅発性脳症を呈した84歳女性例

清水 文崇1), 川井 元晴1), 小笠原 淳一1), 根来 清1), 森松 光紀2), 神田 隆1)

1)山口大学大学院システム制御医学系専攻脳・神経病態統御医学領域神経内科分野〔〒755-8505 宇部市大字南小串1-1-1〕
2)徳山医師会病院〔〒745-8510 周南市慶万田10-1〕

フェンタニル中毒15日後より遅発性脳症を呈した84歳女性例を報告する.2005年3月,膝関節痛に対しフェンタニル10 mgを貼布し,翌日電気こたつに入ったまま意識消失しているところを発見された.近医搬送時低酸素血症をみとめたが,ナロキソン投与により意識障害の改善がみられ日常生活動作も自立まで回復した.しかし第15病日よりふたたび前頭葉徴候,錐体路徴候をともなう意識障害が出現した.その後意識障害は軽快し,第40病日より簡単な会話が可能となるまで回復した.本例は高温環境下で高用量フェンタニルを貼付したため,フェンタニルの血中濃度が異常に上昇し,呼吸抑制から低酸素状態,一過性血圧低下を生じ遅発性低酸素脳症にいたったものと推察した.従来報告されている遅発性低酸素脳症と比較し予後が良好であったが,その要因の1つとしてフェンタニルによる脳保護作用が考えられた.

(臨床神経, 47:222−225, 2007)
key words:遅発性脳症, フェンタニル中毒, 遅発性低酸素脳症

(受付日:2006年12月6日)