臨床神経学

症例報告

心尖部肥大型心筋症に合併した心原性脳塞栓症の1例

田口 芳治1), 高嶋 修太郎1), 志田 拓也1), 平井 忠和2), 道具 伸浩1), 田中 耕太郎1)

1)富山大学附属病院 神経内科〔〒930-0194 富山市杉谷2630〕
2)富山大学医学部 第2内科

症例は56歳の男性である.39歳時に心尖部肥大型心筋症と診断された.一過性の左上肢の脱力が出現したため当科に入院した.脳塞栓症と診断し,入院時よりヘパリンの投与を開始したが,入院2日目に再度右手の脱力が出現した.頭部MRI(拡散強調画像)では左中大脳動脈領域の皮質,皮質下に多発性の小梗塞巣をみとめた.心エコーで心尖部の拡張と壁運動低下,および同部位に心内血栓を確認した.以上より,心尖部型肥大型心筋症が拡張相に移行したため,拡張した心尖部に心内血栓を形成し心原性脳塞栓症を発症したと考えた.ヘパリンの投与を継続し心内血栓は消失した.心房細動をともなわない肥大型心筋症でも拡張相に移行したばあいは心原性脳塞栓症を発症することがあり,ワルファリンによる抗凝固療法が必要である.

(臨床神経, 47:165−168, 2007)
key words:心尖部肥大型心筋症, 心原性脳塞栓症, 心内血栓, 抗凝固療法

(受付日:2006年11月8日)