臨床神経学

症例報告

ATLに合併したPMLにおいて新たな変異型JC virusを検出した1例

松尾 崇1), 京楽 格1), 塩見 一剛1), 杉本 精一郎1), 鄭 懐穎2), 中里 雅光1)

1)宮崎大学医学部内科学講座神経呼吸内分泌代謝学分野〔〒889-1692 宮崎県宮崎郡清武町大字木原5200〕
2)東京大学医学部泌尿器科

症例は53歳男性である.2002年に末梢血の異常リンパ球とHTLV-1抗体陽性を指摘され,成人T細胞白血病(ATL)と診断された.2004年2月より左不全麻痺と左同名半盲が出現し,徐々に増悪した.頭部MRIで右後頭葉白質を中心にFLAIRで高信号領域をみとめ,進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy(PML))がうたがわれた.髄液のPCR検査ではJCウイルス(JCV)が陽性であった.同年8月下旬にPMLの治療目的で当科に入院した.ATLが急性転化し,画像上PMLの増悪所見に加え,左後頭葉皮質の浮腫とGd造影効果をみとめた.全身化学療法と共にMethotrexate(MTX)とCytarabine(Ara-C)の髄腔内投与をおこない,一時的にATLにともなう高カルシウム血症やATL細胞の中枢浸潤にともなう意識障害は改善したが,11月には肝臓や腎臓にATLが浸潤し,多臓器不全で死亡した.JCVの遺伝子プロファイル解析の結果,ドメインAの重複とドメインBの欠失をふくむ3種類の調節領域が検出された.これまでに報告されているPMLのJCV調節領域の変異数は1または2種類であり,3種類の変異を同時に示したものは知られていない.典型的なPMLではMRI画像上,病変部がGd強調画像で造影されず,皮質の浮腫もともなわないと報告されている.本症例はPMLとして非典型的なMRI画像所見を示したが,ATL細胞の中枢浸潤により修飾された可能性が考えられた.

(臨床神経, 47:27−31, 2007)
key words:進行多巣性白質脳症, 成人T細胞性白血病, JCウイルス, 欠失変異, 再編成

(受付日:2006年5月22日)