臨床神経学

症例報告

髄膜腫摘出後に発症したMycobacterium fortuitum髄膜炎の1例

藤川 敬太1), 末永 章人2), 本村 政勝1), 福田 卓2), 大江 宜春2), 江口 勝美1)

1)長崎大学大学院医歯薬総合研究科病態解析制御学講座(第1内科)〔〒852-8501 長崎市坂本1丁目7番1号〕
2)北九州市立八幡病院内科〔〒808-0024 北九州市八幡東区西本町4丁目18番1号〕

症例は,57歳女性である.56歳時,髄膜腫の摘出術を施行.術後より発熱と頭痛をくりかえし,手術後1年目に精査目的で入院.入院時の髄液検査では多核球優位の細胞増多をみとめた.髄液中の細菌・抗酸菌培養,結核菌PCR,クリプトコッカス抗原,細胞診をくりかえし提出したが,いずれも陰性で起炎菌は不明であった.各種抗菌薬・抗真菌薬・抗結核薬を投与したが改善しなかった.髄液検査を反復したところ,Mycobacterium fortuitum(M. fortuitum)が同定され,クラリスロマイシン(CAM)の投与を開始した.レボフロキサシン(LVFX)に感受性があったため追加したところ,臨床症状と髄液所見が著明に改善した.M. fortuitumによる中枢神経系への感染はまれであり,外傷後や手術後に髄膜炎を発症した報告が海外でいくつかあるのみであった.また,髄液所見は細菌性髄膜炎に類似しており通常の抗結核薬には耐性を示す.髄膜腫摘出が発症に関連したと考えられるM. fortuitum髄膜炎を経験したので報告する.

(臨床神経, 46:480−484, 2006)
key words:Mycobacterium fortuitum, 髄膜炎, 非結核性抗酸菌, 手術後

(受付日:2006年3月8日)