臨床神経学

症例報告

頭蓋内圧亢進の改善目的に作成したVPシャントを介しての化学療法により髄液所見と臨床症状の改善がえられた髄膜癌腫症の1剖検例

三浦 恵1), 飯島 尚子1), 林田 研介1), 北澤 和夫2), 石井 恵子3), 大原 慎司1)

1)国立病院機構中信松本病院神経内科〔〒399-0021 松本市寿豊丘811〕
2)相澤病院脳神経外科〔〒390-8510 松本市本庄2-5-1〕
3)信州大学医学部臨床検査医学教室〔〒390-8621 松本市旭3-1-1〕

症例は70歳男性である.めまい感と歩行時のふらつきを自覚し,しだいに頭痛と難聴が加わった.発症4カ月後に当科入院した.治療抵抗性の高血圧,脳圧亢進症状,失調性歩行をみとめた.頭部MRI所見と髄液検査から髄膜癌腫症と診断,原発巣の検索でBorrmann3型の胃癌(組織型:乳頭腺癌)をみとめた.髄膜以外の転移はなかった.頭蓋内圧亢進に対してVPシャントを作成し,さらにTS-1の内服とシャントリザーバーからのMTX髄注化学療法を施行した.その結果,臨床症状および髄液所見の著明な改善がえられ,5カ月間ADLは自立した.その後,しだいに治療に抵抗性となり,相貌失認,皮質盲が出現し,全経過1年で死亡した.剖検では,胃の粘膜層内に限局するmicropapillary patternをともなう乳頭腺癌と肝門部リンパ節転移をみとめた.一方,大脳では後頭葉,側頭葉底部,小脳に強調される髄膜癌腫症の典型的な所見をみとめ,両側の三叉神経は腫瘍性に腫大していた.髄膜癌腫症の治療に,VPシャントによる脳圧のコントロールと共に,VPシャントを介しての髄注化学療法が有用である可能性が示唆された.

(臨床神経, 46:404−409, 2006)
key words:癌性髄膜症, 胃癌, VPシャント, 癌化学療法, メトトレキセート

(受付日:2005年11月9日)