臨床神経学

楢林賞

ドーパ反応性ジストニー:臨床・遺伝・生化学的研究

古川 芳明

Movement Disorders Research Laboratory, Centre for Addiction and Mental Health-Clarke Division〔250 College Street, Toronto, Ontario M5T 1R8, Canada〕

ドーパ反応性ジストニー(DRD)の原因遺伝子には,(1)tetrahydrobiopterin(BH4)生合成経路のGTP cyclohydrolase I(GTPCH)の遺伝子(GCH1),(2)BH4を補酵素とするtyrosine hydroxylase(TH)の遺伝子,(3)DYT14に局在する遺伝子(未同定)の少なくとも3種類があり,著者らの検索では85%以上の家系で(1)か(2)の遺伝子異常がみいだされている.DRDの主病型であるGTPCH-deficient DRD(heterozygote)の家系で,運動発達遅延をともなった比較的重症例をみとめることがあるが,このような同一家系内における臨床像の多様性は,GCH1遺伝子変異のcompound heterozygoteの存在により説明されることがある.GTPCH-deficient DRD線条体の(被殻の尾側部位でもっとも顕著な)ドーパミン欠乏は,ニューロンの変性脱落によるものではなく,補酵素BH4の不足によるTH活性低下と被殻でいちじるしいTHタンパク質量減少により,THの機能が二重に障害された結果生じたものと考えられる.この被殻におけるTHタンパク質量の減少幅とDRD症候発現の有無は密接に関連しているものと思われ(GTPCH-deficient DRD発症例,−97%以上;無症候性キャリア,−52%),BH4による黒質線条体DAニューロン終末部のTHタンパク質量調節機序の解明が待たれるところである.本総説ではDRDの臨床・遺伝・生化学的特徴を,著者らの報告をふくむ最近の知見を中心に解説する.

(臨床神経, 46:19−34, 2006)
key words:ドーパ反応性ジストニー, GTPシクロヒドロラーゼI, テトラヒドロビオプテリン, チロシン水酸化酵素, DYT14ジストニー

(受付日:2005年5月25日)