臨床神経学

症例報告

Sjögren症候群を合併し病初期に免疫療法が有効であったbrachial amyotrophic diplegiaの1例

高倉 由佳, 村井 弘之, 古谷 博和, 越智 博文, 吉良 潤一

九州大学大学院医学研究院附属脳神経病研究施設神経内科〔〒812-8582 福岡市東区馬出3-1-1〕

74歳の女性例を報告した.72歳時より左上肢で進行性の筋力低下・筋萎縮をみとめるようになった.頸椎症性脊髄根症との診断のもと前方固定術が施行されたが,左上肢筋力低下は徐々に進行し,さらに右上肢の脱力も出現,進行した.入院時,神経学的には両上肢に限局した高度の筋萎縮と脱力,腱反射の消失がみとめられた.上肢の運動神経伝導速度は正常であったがCMAP振幅は低下し,伝導ブロックはみとめられなかった.針筋電図ではびまん性に神経原性変化を示していた.以上より,brachial amyotrophic diplegia型の脊髄性進行性筋萎縮症と診断した.本例ではSjögren症候群を合併していることが唾液腺造影および唾液腺生検で確認された.またウェスタンブロットにて血清中に約50 kDaの脳の蛋白に反応する抗神経抗体をみとめた.副腎皮質ステロイド剤パルス療法,血漿交換,免疫グロブリン大量静注といった免疫療法をおこなったところとくに後二者が有効であり,筋力が明らかに改善した.本報告はSjögren症候群を合併した運動ニューロン疾患に免疫療法が奏効したことをはじめて示したものであり,本症例は,神経症状の背景に自己免疫学的機序による前角運動ニューロンの障害が推察された,きわめて貴重な症例である.

(臨床神経, 45:346−350, 2005)
key words:Sjögren症候群, 脊髄進行性筋萎縮症(SPMA), 運動ニューロン疾患, 自己免疫疾患, 抗神経抗体

(受付日:2004年4月1日)