臨床神経学

原著

卵円孔開存による奇異性脳塞栓症の発症時状況―診断根拠としてのワルサルバ負荷・長期座位の重要性―

上床 武史1), 豊田 一則1), 藤本 茂1), 矢坂 正弘2), 井林 雪郎3), 飯田 三雄3), 岡田 靖1)

1)国立病院九州医療センター脳血管内科・臨床研究部〔〒810-8563 福岡市中央区地行浜1-8-1〕
2)国立循環器病センター内科脳血管部門
3)九州大学大学院医学研究院病態機能内科学

若年脳卒中研究班で作成した診断基準によって奇異性脳塞栓症と診断された症例と,右左短絡を有しながら奇異性脳塞栓症と診断されなかった症例の発症時の状況に違いがみられるかについて,検討した.急性期虚血性脳血管障害をうたがわれて当施設に入院,経食道心エコーで評価をおこなった365連続例を対象とし,卵円孔開存陽性で奇異性脳塞栓症の診断にいたったA群(19例),卵円孔開存をみとめたが奇異性脳塞栓症の診断にいたらなかったB群(34例),卵円孔開存をみとめず心原性脳塞栓症と診断されたC群(69例)の3群に分けて,臨床像を比較した.A,B群をふくめて365例中78例(21%)に卵円孔開存をみとめた.発症時の状況としてワルサルバ負荷のかかる動作ないし長期の座位姿勢直後の起立をA群の37%,B群の9%,C群の3%にみとめ,A群での該当例が有意に多く(p<0.0001),本群に限ると静脈血栓(診断項目#3,陽性率21%)よりも頻度が高かった.奇異性脳塞栓症がワルサルバ負荷のかかる動作や長期の座位姿勢後の発症と関連することが明らかになり,その診断基準の1項目として,この特殊な発症時状況を他の項目と同等に取り扱うことも妥当と考えられた.

(臨床神経, 44:503−507, 2004)
key words:脳梗塞, 卵円孔開存, 経食道心エコー, ワルサルバ負荷, エコノミークラス症候群

(受付日:2003年9月22日)