症例報告
MELAS様症状で発症したcytochrome c oxidase（COX）完全欠損の成人例
紀平 為子1）, 河本 純子1）, 吉田 宗平1）＊, 廣西 昌也1）＊＊, 近藤 智善1）, 中尾 直之2）, 後藤 雄一3）, 西野 一三3）, 埜中 征哉4）
1）和歌山県立医科大学神経内科〔〒641-8510 和歌山市紀三井寺811-1〕
2）同 脳神経外科
3）国立精神・神経センター神経研究所 国立精神・神経センター武蔵病院
4）国立精神・神経センター武蔵病院
＊現 関西鍼灸大学〔〒590-0482 大阪府泉南郡熊取町若葉2-11-1〕
＊＊現 新宮医療センター〔〒647-0072 和歌山県新宮市蜂伏18番7号〕
症例は30歳男性である．生来健康であったが，比較的急性に痙性四肢麻痺，右上肢および左下肢の異常感覚と温痛覚低下，構音障害を呈した．頭部MRIでは両側前頭側頭頭頂葉皮質・皮質下白質に脳血管支配領域に一致しないT1強調画像（T1WI）で低信号領域，T2強調画像（T2WI）で高信号領域が多発性に分布していた．乳酸アシドーシスはみとめなかったが髄液中の乳酸高値をみとめた．側頭葉での脳生検で血管周囲性の炎症細胞浸潤，筋生検でcytochrome c oxidase（COX）の完全欠損をみとめた．ミトコンドリアDNA（mtDNA）の検索では明らかな変異をみとめなかった．成人発症のCOX完全欠損でMELASを初発とする報告は少ない．MELASはheterogenousな症候群とされ，mtDNA 3243A＞G点変異などのmtDNA異常以外に，核由来のCOX完全欠損によるばあいも考えられ，鑑別疾患として重要である．
(臨床神経, 44：187−192, 2004)
key words：COX完全欠損, MELAS様症状, 成人, ミトコンドリア脳筋症
（受付日：2003年7月25日）
