臨床神経学

症例報告

アシクロビルにより多彩な精神神経症状を呈したと考えられる急性脳炎の1例

友利 浩司, 五十棲 一男, 本橋 佐知子, 小松本 悟, 福内 靖男

足利赤十字病院神経内科〔〒326-0808 栃木県足利市本城3-2100〕

症例は30歳の女性である.主訴は発熱,痙攣と意識障害.急性ウイルス性脳炎の診断のもと単純ヘルペス脳炎に対するアシクロビル静脈投与を開始した.その後,発熱および意識障害は軽快した.しかし,アシクロビル投与開始3日後より,痙攣,幻覚,構音障害,疼痛発作が出現し,本薬の投与中止により24時間以内に改善傾向を示し,4日後には完全に消失した.アシクロビルの精神神経系副作用は,腎不全患者において数多く報告されている.本症例は,腎機能障害のない若年者に常用量のアシクロビルを投与し精神神経症状が出現していたが,アシクロビル血中濃度が中毒域にまで上昇したとは考えにくかった.先行した脳炎の悪化との鑑別に苦慮した1例であり,本症の発症機序を考えるうえで示唆に富む症例と考え報告した.

(臨床神経, 43:470−476, 2003)
key words:アシクロビル脳症, 精神神経症状, ウイルス脳炎

(受付日:2001年4月21日)