臨床神経学

短報

抗リン脂質抗体症候群による可動性総頸動脈血栓をみとめた動脈原性脳塞栓症

萩原 のり子, 西村 祐美, 豊田 一則, 藤本 茂, 岡田 靖

国立病院九州医療センター脳血管センター・臨床研究部脳血管内科〔〒810-8563 福岡市中央区地行浜1丁目8-1〕

症例は56歳の女性である.右前頭葉の塞栓性脳梗塞を発症した際に,頸部血管エコーで患側の総頸動脈に可動性成分をふくむ塊状の血栓をみとめたものの,血栓付着部位の内中膜は動脈硬化性変化に乏しかった.混合性結合組織病と抗リン脂質抗体症候群のあることをはじめて指摘され,それが血栓形成の原因と考えられた.頸動脈原性脳塞栓症の診断の下に抗血栓療法を強化した.血栓は紐状に変化した後,約2週間の経過で完全に消失した.抗リン脂質抗体症候群にともなう動脈血栓は主に頭蓋内外動脈や,四肢や腹部の動脈で形成されるが,消失までの過程を経時的に追跡しえた報告はまれである.本症を有する患者に頸部血管エコーで血栓の有無を評価することは,脳梗塞の一次予防・再発予防の観点から重要である.

(臨床神経, 43:366−369, 2003)
key words:抗リン脂質抗体症候群, 混合性結合組織病, 脳梗塞, 抗血栓療法, 頸動脈エコー検査

(受付日:2003年2月12日)