臨床神経学

症例報告

視覚性記銘力障害をともなわない街並失認―右側頭後頭葉梗塞の1例―

青木 和子, 廣木 昌彦, 板東 充秋, 宮本 和人, 平井 俊策

東京都立神経病院神経内科〔〒183-0042 東京都府中市武蔵台2-6-1〕

街並失認を呈した右側頭後頭葉梗塞例を経験し,発症機序について検討した.症例は70歳,右利き男性.右海馬傍回後部および舌状回・紡錘状回・楔部に梗塞をみとめた.地誌的な空間的位置関係の認知・記憶は保たれているが,熟知・未知の空間にて概観の再認障害をみとめ,街並失認と考えた.本例では相貌失認をみとめたが,他の視覚認知障害および視覚性記銘力障害をともなわなかった.本例の街並失認の発症機序として,家屋等の形態に限局した認知障害または認知と独自性に関する視覚性認知的記憶との統合障害を考えた.

(臨床神経, 43:335−340, 2003)
key words:地誌的障害, 街並失認, 脳梗塞, 視覚性記銘力障害

(受付日:2003年1月15日)