臨床神経学

症例報告

Streptococcus suisによる腰椎硬膜外膿瘍を合併した細菌性髄膜炎の1例

茨木 麻衣子, 藤田 信也, 他田 正義, 大滝 長門1), 永井 博子

長岡赤十字病院神経内科〔〒940-2085 長岡市寺島町297-1〕
1)同 整形外科

食肉加工業者に発症し,腰椎硬膜外膿瘍を合併した,ブタ連鎖球菌Streptococcus suisS. suis)による細菌性髄膜炎の1例を報告した.症例は47歳,男性.手傷があるにもかかわらず,手袋をせずにブタを食肉用に解体する仕事に従事していたが,頭痛・発熱で発症し,髄液培養でS. suis type 2が検出された.入院時より激しい腰痛も訴え,腰椎MRIで右第3椎体レベル神経根部周辺に硬膜外膿瘍をみとめた.抗生物質の投与で,炎症症状は改善したが,第8病日から難聴が出現し,ステロイドによる治療をおこなった.S. suisはブタの常在菌で,ブタの髄膜炎や心内膜炎の原因となる.ヒトに感染すると多くが髄膜炎として発症することが海外で報告されているが,過去に本邦での報告例はない.職業関連性の疾患であり,本邦でもブタを取り扱う食肉加工業者での手袋着用の徹底など,感染の予防対策が重要と考えられた.

(臨床神経, 43:176−179, 2003)
key words:細菌性髄膜炎, ブタ連鎖球菌, 硬膜外膿瘍, 感音性難聴, 職業関連性疾患

(受付日:2002年11月13日)