臨床神経学

症例報告

特異な臨床経過を示した髄外性形質細胞腫をともなうCrow-Fukase症候群の1例

高倉 由佳, 山口 通子, 三好 甫

労働福祉事業団大牟田労災病院神経内科〔〒837-0904 福岡県大牟田市大字吉野字中尾1063〕

66歳の男性例を報告した.上気道炎症状の1週間後,両下肢遠位側から感覚障害が出現し徐々に上行した.少し遅れて両下肢の脱力,口唇周囲・舌のしびれ,上肢指尖のしびれがそれぞれ出現した.発症10日後には歩行不能となった.皮膚の色素沈着,浮腫,リンパ節腫脹などはみられなかった.しかし両下肢で中等度の筋力低下,四肢遠位側での感覚障害,深部腱反射消失,IgG-λ型M蛋白血症,内分泌異常,VEGFの高値(760 pg/ml[正常250以下]),腹腔内に髄外性形質細胞腫の多発をそれぞれをみとめたことからCrow-Fukase症候群(以下CFS)と診断した.Guillain-Barré syndrome様症状で急性発症をきたし,開腹生検という身体的侵襲でVEGFの上昇とともに急速に神経症状が増悪した.このような経過をとるCFSの報告はなく,CFS発症のメカニズムを考える上で重要な示唆を与えると考えた.また,治療にて,免疫グロブリン大量静注療法を単独で試み神経症状の改善をみとめたことより,この療法がCFSの今後の治療法の新たな選択肢のひとつになると考えた.

(臨床神経, 43:170−175, 2003)
key words:Crow-Fukase症候群, 髄外性形質細胞腫, IgG-λ型M蛋白血症, vascular endothelial growth factor(VEGF), 免疫グロブリン大量静注療法

(受付日:2002年9月28日)