臨床神経学

症例報告

注視方向性水平眼振と運動失調をともなった慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)の1例

小澤 栄介1), 藤本 武士1), 本村 政勝1), 調 漸1), 吉村 俊朗2), 田中 恵子3)

田川市立病院〔〒825-8567 福岡県田川市大字糒1700-2〕
1)長崎大学医学部第一内科
2)長崎大学医学部保健学科
3)新潟大学脳研究所神経内科

症例は46歳男性である.慢性に進行する四肢筋力低下と歩行障害にて入院した.四肢麻痺,深部腱反射消失,手袋靴下型の感覚障害に加え,左右水平注視方向性眼振,四肢・体幹部の運動失調をみとめた.神経電気生理学的に伝導速度遅延と振幅低下,髄液で蛋白細胞解離,神経生検では脱髄に加え軸索変性をみとめた.又,MRIでは馬尾は造影され,血清学的にも抗原未同定の抗神経組織抗体がみとめられ,その病態における自己免疫の関与が示唆された.又,神経耳科学的所見により左右注視方向性眼振は小脳脳幹部の障害によるものと考えた.ステロイドパルス療法施行後,運動失調をふくめ症状の改善をみとめた.本症例はCIDPに注視方向性眼振・運動失調をともなったまれな症例と考えた.

(臨床神経, 42:221−226, 2002)
key words:慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP), 小脳性運動失調, 抗神経組織抗体

(受付日:2001年9月28日)