臨床神経学

症例報告

エチゾラム投与中止により悪性症候群をきたした甲状腺機能低下症をともなうパーキンソン病の1例

川尻 真和1), 大八木 保政1), 古谷 博和1), 荒木 武尚1), 井上 尚英2), 江崎 重充3), 山田 猛1), 吉良 潤一1)

1)九州大学大学院医学研究院附属脳神経病研究施設神経内科〔〒812-8582 福岡市東区馬出3-1-1〕
2)九州大学大学院医学研究院衛生学教室
3)長尾病院内科

症例は59歳男性.1993年頃からパーキンソン病およびうつ病と診断され,投薬を受けていた.2000年7月,甲状腺機能低下を指摘された.8月にエチゾラム,アミトリプチリン中止したところ,高熱,意識障害,著明な筋強剛,血清CK上昇がみられ悪性症候群と診断された.抗うつ薬投与中断による悪性症候群発症の報告はなく,本例ではチエノジアゼピン系薬剤であるエチゾラム中止が発症のきっかけになった可能性が高いと考えられた.ダントロレンナトリウムなどによる治療で症状は一時改善したがふたたび意識低下,けいれんをきたした.基礎疾患として著明な甲状腺機能低下状態があり,甲状腺ホルモン剤増量による甲状腺機能の改善とともに意識状態および筋強剛は徐々に改善した.本例では,甲状腺機能低下にともなう脳内ドパミン系の代謝変化が悪性症候群発症に関与した可能性がある.

(臨床神経, 42:136−139, 2002)
key words:悪性症候群, 甲状腺機能低下症, パーキンソン病, 抗うつ薬, ベンゾジアゼピン系抗不安薬

(受付日:2001年8月18日)