臨床神経学

短報

痴呆と上肢の失行を呈した運動ニューロン疾患の1例

奥田 文悟1)2), 巖本 靖道1), 岡 伸幸1), 立花 久大1)

1)兵庫医科大学総合内科神経部門〔〒663-8501 西宮市武庫川町1-1〕
2)愛媛県立中央病院神経内科

症例は61歳女性である.右手の巧緻運動障害と構音障害で発症し約2年半後に入院した.痴呆と失構音に加えて,右側優位の肢節運動失行が顕著で観念運動失行をともなっていた.筋萎縮や筋力低下は軽度であったが,針筋電図と上腕二頭筋生検で神経原性変化が確認された.頭部MRIでは錐体路変性がみとめられた.3次元脳血流画像では前頭・側頭・頭頂葉の血流が左側優位に低下していた.以上より,痴呆をともなう運動ニューロン疾患と診断したが,上肢の失行を合併した報告はきわめて少ない.運動ニューロン疾患においても,大脳皮質基底核変性症に類似した非対称性の失行を呈しうることが示唆された.

(臨床神経, 42:963−965, 2002)
key words:痴呆, 肢節失行, 運動ニューロン疾患, 脳血流

(受付日:2002年3月14日)