臨床神経学

症例報告

抽象的空間関係の操作障害をともなった純粋失演算の1例

平山 和美1), 田口 譲2)*, 塚本 哲朗2)

1)東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻高次機能障害学分野〔〒980-8575 仙台市青葉区星陵町2-1〕
2)いわき市立総合磐城共立病院神経内科
現 東北大学大学院医学系研究科神経科学講座神経内科学分野

左頭頂後頭葉の皮質下出血で,純粋な失演算をきたした35歳の男性を経験した.知能,記銘力,言語,構成は正常,半側空間無視,失書,手指失認,左右失認もなかった.数の音読,聴覚指示,書き取り,数の分解,点の計数,演算記号の読み書き,演算記号の意味の理解,数の大小比較,点の数の大小比較,数唱え,桁揃え,交換則や分配則の理解,九九の暗誦,計算問題の直後再生,電卓の使用も正常であった.しかし,加算,減算は一桁どうしから困難,乗算,除算は九九の援用のみで解けない問題では不能であった.加えて,数の逆唱,時計の読みに問題あり,ルリヤの論理―文法的障害を示した.抽象的空間関係の操作障害と失演算の関係が示唆された.

(臨床神経, 42:935−940, 2002)
key words:失算, 失演算, 論理―文法的障害, 頭頂葉

(受付日:2002年8月1日)