症例報告
脳有鉤嚢虫症―20年後の再感染がうたがわれた1例―
中島 誠, 田島 和周, 平野 照之, 内野 誠, 中村(内山) ふくみ*, 名和 行文*
熊本大学神経内科〔〒860-8556 熊本市本荘1丁目1番1号〕
*宮崎医科大学寄生虫学教室
症例は70歳,男性.旅行添乗員で東南アジアへ度々渡航.1980年痙攣発作で発症し,定位脳生検にて脳有鉤嚢虫症と診断.以後,抗痙攣薬のみで日常生活に支障なく旅行をくりかえしていた.1999年4月フィリピンから帰国後,高熱をくりかえして徐々に全身状態悪化.12月入院時,意識レベルはJCS 3,四肢は屈曲拘縮し,寝たきりの状態であった.血清および髄液中の抗有鉤嚢虫抗体陽性.頭部MRIで,脳実質内外に一部リング状造影効果を有する病巣が散在する特徴的な画像を呈した.副腎皮質ステロイド剤,駆虫剤等の治療で臨床徴候,髄液・画像所見が改善した.今回の症状は有鉤嚢虫の再感染によるものと思われた.
(臨床神経, 42:18−23, 2002)
key words:有鉤条虫, 脳有鉤嚢虫症, 幼虫移行症, 再感染
(受付日:2001年6月13日)