臨床神経学

症例報告

腎移植後に急性散在性脳脊髄炎(ADEM)を合併した1例

岩永 健, 大星 博明, 今村 剛, 水政 透, 井林 雪郎, 平方 秀樹, 藤島 正敏

九州大学大学院医学研究院病態機能内科学〔〒812-8582 福岡市東区馬出三丁目一番一号〕

腎移植後の急性拒絶反応に対して免疫抑制治療中に全身痙攣を初発症状として意識障害をきたし,白質を中心とした散在性病変をみとめた急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の一例を経験した.症例は43歳,男性.腎移植後52日目に血中サイトメガロウイルス抗原価の上昇をみとめ,その1日後に痙攣につづき意識障害,四肢麻痺を呈した.髄液中のミエリン塩基性蛋白は上昇し,頭部MRIにおいて大脳白質を中心に視床,中脳,橋,小脳などに散在性の病変をみとめた.ステロイドのパルス療法およびガンマグロブリンの投与により緩徐ではあるが意識障害および神経症状は改善し,頭部MRIの白質病変も改善した.腎移植後のADEMの報告例はなく,本症の発症機構を解明する上で貴重な症例と考えられた.

(臨床神経, 41:792−796, 2001)
key words:急性散在性脳脊髄炎, 腎移植, サイトメガロウイルス

(受付日:2001年6月17日)