臨床神経学

症例報告

13歳時より月経周期に一致する精神症状をくりかえしたカルバミルリン酸合成酵素I欠損症の1例

涌谷 陽介1), 中安 弘幸1)4), 竹島 多賀夫1), 森 望美1)5), 小林 圭子2), 遠藤 文夫3), 中島 健二1)

1)鳥取大学医学部脳神経内科〔〒683-8504 鳥取県米子市西町36-1〕
2)鹿児島大学医学部生化学第一
3)熊本大学医学部小児科
4)現 鳥取県立中央病院神経内科
5)現 鳥取県立厚生病院神経内科

13歳時よりヒステリー様精神症状をくりかえし,18歳時に著明な高アンモニア血症による急性脳症をきたしたカルバミルリン酸合成酵素I(CPS I)欠損症の1女性例を経験した.患者は初潮のあった13歳時より不眠,興奮,退行現象を呈し,腹痛,嘔気・嘔吐をともなった.精神症状は月経前・月経中に出現する傾向が明らかであり,精神科にて身体化障害および月経前症候群として治療を受けていた.18歳時に精神興奮症状が出現した後,高度の意識障害に陥ったため当科初診.昏睡・四肢麻痺・痙攣を呈し,著明な高アンモニア血症(1,000μg/dl)をみとめた.持続血液濾過,安息香酸ナトリウム・1-アルギニン投与により,高アンモニア血症は改善したが,高度の知的障害を残した.肝生検による肝尿素サイクル酵素活性の測定によりCPS I欠損症と診断した.思春期以降に発症する尿素サイクル酵素欠損症では,意識障害ではなく種々の精神症状が主体となり,女性のばあい月経周期と症状の増悪が一致することがあり注意を要する.

(臨床神経, 41:780−785, 2001)
key words:カルバミルリン酸合成酵素I欠損症, 遅発性, 精神症状, 月経周期

(受付日:2001年9月12日)