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平成19年5月22日
日本神経学会会員の皆様へ
ドパミンアゴニスト使用上の注意
麦角系ドパミンアゴニストの使用により、頻度は低いものの、心弁膜症、心肺後腹膜線維症を起こすことがあることは、既に衆知の事実です。2002年に麦角系ドパミンアゴニストによる心臓弁膜症の報告が行われて以来、ペルゴリド、カベルゴリンについて、心弁膜症に関する報告が欧米を中心として増加しています。
最近アメリカで、ペルゴリドの市場からの撤退が、FDAと製造会社であるバリアンの話し合いで決まりました。これを受けて、本邦でも厚労省とペルゴリド、カベルゴリンの製造会社であるイーライリリー、ファイザー・キッセイ薬品の間で話し合いがもたれ、添付文書のかなり大幅な改定が行われました。我々医師も、患者さんの安全を考え、この改定を熟知する必要があると思います。
このような情況に鑑み、日本神経学会は理事長の下にドパミンアゴニスト使用上の注意を検討する委員会を召集し、わが国において現時点で最も適切と考えられる使用法を検討していただきました。その答申を、去る5月15日に開催された理事会と評議員会で配布し、皆様のご意見をいただいて修正したものを、ここに公表致します。
ここに記す注意項目は、改定添付文書の内容に準じたものですが、お忙しい皆様方にそのエッセンスをお伝えしようとするものです。ドパミンアゴニストを使用される場合は、改めて各添付文書をよく読み、禁忌・慎重投与、起こりうる副作用などについて熟知し、安全で効果的な治療を実施下さるようお願い致します。この「使用上の注意」が会員の皆様に活用され、診療のお役に立つことを期待しております。
初めてドパミンアゴニストを使用する場合
- カベルゴリン、ペルゴリドは原則として第一選択薬とはせず、その他のアゴニストで治療を開始する。それらでは治療効果が不十分、または忍容性に問題があると考えられる場合にのみ使用する。この際risk-benefitをよく勘案する。(その他のアゴニストを使用する場合の注意については、注1及び注2を参照)。
- ぺルゴリドまたはカベルゴリンを使用する場合、頻度は低いが心弁膜障害、心肺後腹膜線維症がおきる可能性を、患者に説明する。署名での同意の必要はないが、カルテに説明したことを記載する(説明義務)。
- ペルゴリドまたはカベルゴリンを使用する際は、使用前に、身体所見、心電図、胸部X線、心エコーなどにより、これら薬剤使用の禁忌となるような病的所見のないことを確かめる。疑問のある時は、循環器内科専門医に診察を依頼し、これらの薬剤使用が差し支えないかどうかの意見を求める。(心エコーの解釈については、注3を参照)。
- 既知の弁膜症、線維症がある患者には、使用しない(禁忌)。
- ペルゴリド、カベルゴリンを開始したら、心弁膜症・心不全・心肺後腹膜線維症などの発現に注意するとともに、開始後3〜6ヶ月後(維持量に達した時点を目安とする)、及びその後は6〜12ヶ月に1回、身体所見、心エコー、胸部X線検査などにより異常のないことを確認する。また維持量はできるだけ低くする(注4を参照)。
- 心弁膜症・心不全徴候・心肺後腹膜線維症を示唆する徴候が現れたら、可及的すみやかに、これら薬剤の中止、他の抗パーキンソン病薬への転換を行い、必要に応じて循環器内科専門医に診察を依頼する。これら薬剤を中止また他薬物への転換を行う際は、悪性症候群が発生しないように注意して減量、中止する。
すでにカベルゴリン、ペルゴリドを服用している場合
- これら薬物で順調に経過している場合は、その時点で、心弁膜障害・心肺後腹膜線維症の可能性を説明すると共に、身体所見、心エコー、胸部X線などにより、これらの異常がないかどうかの検査を行う。これらに異常がない場合は、そのまま継続してよいが、できるだけ低い維持量をめざす。
- これら薬物で期待される効果がない場合や、何らかの副作用を我慢しながら使用している場合は、漫然と使用することなく、他の治療法を検討する。
注1.ドパミン作動性薬剤に共通な重要な基本的注意事項として、前兆のない突発的睡眠の記載がある。なかでも非麦角系のドパミンアゴニスト(プラミペキソール、ロピニロール)では警告として記載されており、これらを使用する場合は、睡眠発作、日中傾眠等、起こりうる副作用についてよく説明する。また本剤服用中は、自動車の運転、機械の操作、高所作業等危険を伴う作業には従事させないよう注意する必要がある。
注2.麦角系ではあるが、ブロモクリプチンの弁膜症発生の危険は少ない。しかし、ブロモクリプチンでの弁膜症発生、ブロモクリプチンとペルゴリドの併用での弁膜症発生がそれぞれ1例報告されている。また肺線維症、後腹膜線維症の報告もある。
注3.厚労省指導の改正添付文書によれば、心エコー所見で心臓弁尖肥厚、心臓弁可動制限及びこれらに伴う狭窄等の心臓弁膜の病変が認められた患者及びその既往のある患者には使用禁忌となっている。しかし、これらの有無がはっきりせず、逆流の程度から判断せざるをえない場合もあると思われる。麦角製剤による弁障害は大部分が閉鎖不全であることを考えると、逆流の程度を参考にすることが重要である。循環器内科専門医の意見から以下のように対応する。
- 薬剤による影響が疑われる弁の肥厚や可動制限をみたときは年齢や投与期間を考慮して、薬剤投与の適否を慎重に決定する。
- 逆流の定量化は各施設で、統一がないことを鑑み、よく利用される以下の半定量化法にて判断する。
Trivial(Trace)とMild:投与可能。
Moderate:施設により幅があると考えられるので、各施設に一任。
Severe:禁忌。
結果がI度〜IV度で記載されている場合は、上記のどれに相当するか施設ごとに確認。
なお、弁膜症の評価は聴診を含めた身体所見や心不全を示す臨床症状も参考とする。
注4.ペルゴリド、カベルゴリンに関し、どの程度の用量なら安全であるかとの十分なデータはない。従って低用量でもここに述べたような注意は必要である。尚、ペルゴリドとカベルゴリンを併用すると、報告されている維持量より低い用量で、心臓弁膜症が生じた報告があるので、この2者の併用は極力避けることが望ましい。
「ドパミンアゴニスト使用上の注意」検討委員会名簿(順不同)
神経学会専門家
水野 美邦:順天堂大学医学部付属越谷病院院長(委員長)
柳澤 信夫:関東労災病院院長
久野 貞子:国立精神・神経センター武蔵病院副院長
近藤 智善:和歌山県立医科大学神経内科教授
山本 光利:香川県立中央病院神経内科部長
野元 正弘:愛媛大学大学院医学系研究科病態治療内科学教授
理事会から
葛原 茂樹:日本神経学会理事長、三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座
神経病態内科学講座教授
水澤 英洋:日本神経学会総務担当理事、東京医科歯科大学大学院医歯学総合
研究科脳神経病態学教授
循環器内科専門家
大川眞一郎:(財)健康医学協会霞が関ビル診療所所長
羽田 勝征:榊原記念クリニック循環器内科
高見澤 格:榊原記念病院
臨床疫学専門家
中山 健夫:京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野教授
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