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日本神経学会治療ガイドライン

日本神経学会治療ガイドラインについて

日本神経学会
前理事長 柳澤 信夫

 このたび代表的な神経疾患についての治療ガイドラインを作成しました。ここにいたる経過とガイドライン使用の趣旨を申し述べ、利用に際しての参考にしていただきたいと存じます。

 数年来のわが国および欧米の医療制度の変革の中で、診療内容についての基準作成が一つの柱になりつつあります。厚生労働省においても研究班による診療ガイドラインの作成、メディカル・フロンティア、効果的医療技術の確立推進など、高齢社会において頻度の高い疾患の克服のためのデータ作りと実践が最重要課題として取り上げられるようになりました。

 そこで本学会においても2000年5月から7月にかけての理事会、診療向上委員会の議を経て、頭痛、脳血管障害、痴呆、てんかん、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症の6疾患について治療ガイドラインの作成を決定し、各疾患毎に小委員会を設け2002年5月の神経学会総会までにガイドラインを作成することにいたしました。全体のまとめ役は診療向上委員会の渋谷統寿委員長にお願いし、この作業をおこなう各小委員会は目的達成のためのad hoc(臨時)委員会として位置付けました。そして学会としての責任上6小委員会の各委員長には専門領域の理事に就任していただきました。

 2000年秋に、小委員会の活動開始にあたり、統計およびEvidence Based Medicine(EBM)における資料の科学的根拠に関する外部専門家3名にアドバイザリーボードとなっていただき、まず全体会議において、ガイドラインの意義や科学性、医療における取り扱いの留意点などについてヒアリングをおこない、コンセンサスをえて資料蒐集と評価の作業を開始いたしました。各小委員会は膨大な資料を蒐集、評価し、2001年末にガイドライン草案を作成し、ホームページに掲載して会員のコメントをえたのち、2002年5月最終的なガイドラインが作成されました。この間各小委員会は多くの時間を費やして精力的な作業に従事し、現状においてはこれ以上望めない的確なガイドラインが作成されたと信じております。短期間に、学会の作業としてこのような成果をあげられたad hoc委員会の方々に心から敬服し、感謝いたします。

 今回策定したガイドラインの対象疾患は、神経内科だけが専門的に診療をおこなうものばかりではありません。脳血管障害については他学会と共同で作業をしており、ガイドラインの発表はしばらく先になります。また疾患により、パーキンソン病やてんかんのように多くの治療薬が開発されて薬物治療が確立しているものや、痴呆や筋萎縮性側索硬化症のように有効な薬物が限られ、非薬物的介入や介護が重要な疾患など、疾患により治療内容は多彩であり、それらのEBMの評価段階は種々です。また、てんかんや頭痛のように治療目標が明確に限定された疾患と、パーキンソン病や痴呆のようにQOLが治療目的として重要な高齢者の慢性疾患では、治療の目的もことなります。

 今回まとめた日本神経学会の治療ガイドラインは、基本的に学会員を中心とした神経内科医に現在におけるエビデンスに基づいた各種治療の評価を提供し、診療に役立ててもらう趣旨で作られたものです。いうまでもなくEBMにおいては、主治医が自己の経験と患者の希望、そして的確に評価された治療法の三者を統合して具体的な治療を決定し実施することが求められます。そのばあい利用者は、EBMに基づいた各種薬物の評価にあたって、画一的に治療研究のタイプに基づくレベルを実証的な信頼性のレベルと同一視してはなりません。たとえばパーキンソン病治療薬のドパミン受容体アゴニストをとってみると、近年レベル1の治験で有効性が確かめられた薬剤にくらべて、20年以上前に開発されて有効性も副作用も臨床の場で確立されている薬剤が、時代的な背景から現在のレベル1の臨床試験がおこなわれていないからといって、有効性の確かさが低いとみることはできません。また多くの神経疾患の特徴として、長期経過をとり、同一疾患でも経過によって病像が変化し、社会的、家庭的背景がことなる一人一人の患者にどのような治療法を選ぶかの判断にあたって、均一化した条件下の試験でえられた結果を機械的にあてはめることはできません。とくにエビデンスの質の評価には経済性が含まれていないことに注意すべきです。本ガイドラインは、疾患の診断がついたら、自動的にもちいる薬物の順序が決まるといった画一的な治療法を述べたものではないことに留意していただきたいと思います。ガイドライン共通の位置付けとして、あくまでも主体的に治療法を決定する医師がベストの治療法を選択するための参考として、個々の治療薬や非薬物的治療の現状における評価を、一定の方式に基づく根拠をもとに呈示したものであります。

 この神経疾患治療ガイドラインに対しては、経験の少ない医師ほど依存度が高いことが予想されます。したがって、そのようなばあいにも判断を誤ることがないように、表現に意をもちいてあります。またリストアップされた文献は読者が参照するに足るものを選んであります。疑問があれば原文にあたり、更には上級医師に相談する態度を是非持っていただきたいと願います。ガイドラインは若い医師にとって有益な参考資料であっても、決して臨床の師とはなりえないものです。

 またこれから近い将来に、病院毎に主要疾患に対するクリニカルパスが作成される状況が到来するでしょう。そのばあいにこれらのガイドラインは充分利用できるものと信じております。日進月歩の神経疾患治療の発展の中で、本ガイドラインも定期的な改訂をおこなっていくことになります。本学会ガイドラインの適切な改訂のために、実地に利用される学会員の皆さんのフィードバックが欠かせません。是非有効に利用し育てていただくことをお願いいたします。

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