臨床神経学

<シンポジウム14―3>神経変性をどう考えるか?病態理解にいたる最近の進歩

TGF-βシグナルからみた神経変性機序

勝野 雅央1), 坂野 晴彦1)2), 鈴木 啓介1), 足立 弘明1), 田中 章景1), 祖父江 元1)

1)名古屋大学大学院医学系研究科神経内科〔〒466―8550 名古屋市昭和区鶴舞町65〕
2)名古屋大学高等研究院

Transforming growth factor-β(TGF-β)は細胞の増殖・分化・移動などを制御する多機能サイトカインであり,ニューロンに対してもtrophic factor として機能し,その生存や機能を支持することが示されている.球脊髄性筋萎縮症(SBMA)はアンドロゲン受容体(AR)遺伝子におけるCAGくりかえし配列の異常延長を原因とする下位運動ニューロン疾患であるが,SBMAのモデルマウスおよび患者組織では変異ARによりII型TGF-β受容体の発現が低下し,シグナルを伝達する転写因子であるSmad2のリン酸化・核内移行が抑制されることが報告されている.また,筋萎縮性側索硬化症ではTGF-βシグナルの調整因子であるZNF512Bの遺伝子プロモーター領域の塩基多型が疾患感受性に関与していると報告されている.TGF-βシグナルの異常はそのほか脊髄性筋萎縮症や遺伝性痙性対麻痺でも報告されており,運動ニューロン変性のメカニズムとして重要であると考えられる.
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(臨床神経, 51:982−985, 2011)
key words:球脊髄性筋萎縮症,筋萎縮性側索硬化症,運動ニューロン,TGF-β,転写障害

(受付日:2011年5月19日)