臨床神経学

第51回日本神経学会総会

<Education Program 3>
多発性硬化症の臨床研究の最近の進歩:アストロサイトパチーからみた脱髄

吉良 潤一

九州大学大学院医学研究院神経内科学〔〒812―8582 福岡市東区馬出3―1―1〕

視神経脊髄炎(neuromyelitis optica,NMO)は,NMO-IgGの発見により多発性硬化症(multiple sclerosis,MS)とは病態機序が異なる独立した疾患とする説が有力となっている.NMO-IgGが認識するaquaporin-4(AQP4)がアストロサイトの足突起に存在する水チャネル分子であることから,NMO-IgG(抗AQP4抗体)が,アストロサイトの足突起上のAQP4に結合し補体を活性化することでアストロサイト死を誘導するとされる.他方,Balo病は脱髄層と非脱髄層が交互に同心円状に分布する特徴的な病理像を示す.このような同心円状病巣は,MSやNMOでもみられることがある.私たちは,Baló病巣では脱髄巣も非脱髄巣もふくめて広汎にAQP4が脱落していることをみいだした.Baló病では,血管周囲性に抗体や補体の沈着はみられず,血清抗AQP4抗体も陰性であることから,抗AQP4抗体非依存性アストロサイトパチーが,オリゴデンドロサイトパチーを誘導して,脱髄をひきおこすとの新しい説を提唱している.同様な血管周囲性の抗体や補体の沈着をともなわないAQP4の脱落は,MSやNMOの病巣でもみられることがあり,自己抗体非依存性アストロサイトパチーは広く脱髄性疾患に共通するメカニズムである可能性が高い.
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(臨床神経, 50:788−793, 2010)
key words:多発性硬化症,視神経脊髄炎,Baló病,アストロサイトパチー,アクアポリン4

(受付日:2010年5月20日)