臨床神経学

短報

左三叉神経障害にて発症したと思われる悪性リンパ腫の1例

赤座 実穂1), 常深 泰司1)*, 三條 伸夫1), 脇本 浩明2), 小林 大輔3), 水澤 英洋1)

Corresponding author:東京医科歯科大学大学院脳神経病態学〔〒113-8519 東京都文京区湯島1-5-45〕
1)東京医科歯科大学大学院脳神経病態学
2)同 脳神経外科
3)同 病理部

症例は60歳男性である.左三叉神経第1―3枝領域の発作的なちくちくした痛みが生じた.痛み発作は何かに誘発されるものではなかった.脳MRIを撮影したところ左三叉神経が腫脹し均一に造影され,神経鞘腫の診断にてガンマナイフ治療を施行した.その1カ月後,MRIにて左三叉神経腫瘤は縮小していたが,新たに右外転神経麻痺が出現し,ステロイド治療で軽快した.さらに,9カ月後にふらつきが出現し,脳MRIにて脳室周囲に造影される多発腫瘤をみとめた.生検にて悪性リンパ腫と診断し,メソトレキセート大量療法にて完全寛解をえた.本症例は三叉神経障害で発症し右外転神経麻痺で再発,脳内多発腫瘤にて診断にいたった悪性リンパ腫である可能性が高いと考えられる.悪性リンパ腫はまれながら三叉神経痛として発症する事があるが,生検以外の方法での正確な診断は困難である.三叉神経腫瘤に初期のステロイド投与やガンマナイフ治療が著効したばあいでも注意深く脳MRIの経過観察をする必要がある.
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(臨床神経, 49:432−436, 2009)
key words:三叉神経, 悪性リンパ腫, ガンマナイフ

(受付日:2008年11月11日)