臨床神経学

第50回日本神経学会総会

<教育講演3>
神経障害性疼痛発症メカニズムとその制御

井上 和秀

九州大学大学院・薬学研究院・薬理学分野〔〒812-8582 福岡市東区馬出3-1-1〕

痛みを伝える末梢神経の損傷や機能異常は神経障害性疼痛という耐えがたい慢性疼痛をひきおこす.しかし,その発症メカニズムが不明のために有効な治療法がなく,モルヒネなどの鎮痛薬も奏功しがたく,全世界で2,200万人以上の患者が苦しんでいるとされている.われわれは,末梢神経損傷後に脊髄で活性化したミクログリア細胞にイオンチャネル型P2プリン受容体サブタイプP2X4受容体が過剰発現し,その受容体刺激が神経障害性疼痛に重要であること,更に,P2X4受容体の活性化によりミクログリアから脳由来神経栄養因子(BDNF)が放出され,それが痛覚二次ニューロンのClイオンくみ出しポンプの発現低下をひきおこし,それゆえ,触刺激により放出されたGABAの二次ニューロンに対する作用が抑制性から興奮性へと変化し,このようにして,触刺激が疼痛をひきおこすことを示した.その後更に,P2X4受容体過剰発現メカニズムや,ミクログリアの活性化がインターフェロンガンマによりひきおこされることをみいだした.また,活性化ミクログリア細胞にはP2Y12受容体が発現し,独特のメカニズムで神経障害性疼痛に関与する.これらの事実は,神経障害性疼痛発症におけるP2プリン受容体―ミクログリア―ニューロン連関の重要性を示唆している.
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(臨床神経, 49:779−782, 2009)
key words:神経障害性疼痛, ミクログリア, ATP受容体

(受付日:2009年5月21日)