臨床神経学

症例報告

大腸癌とその転移にともなう凝固線溶系の異常により脊髄円錐部出血をきたした1例

安部 芳武, 迫 祐介, 花岡 拓哉, 木村 成志, 荒川 竜樹, 熊本 俊秀

大分大学医学部脳・神経機能統御講座(第3内科)〔〒879-5593 大分県由布市挟間町医大ヶ丘1-1〕

症例は76歳女性である.4日間の経過で両下肢の脱力,感覚障害,排尿障害をきたし当科に入院した.74歳時に上行結腸癌,75歳時に転移性肺癌の手術を受けた.神経学的には下肢対麻痺,アキレス腱反射消失,L3以下の感覚消失,膀胱直腸障害をみとめた.腰部MRIにて脊髄円錐部にT1強調像で等信号域,T2強調像で低信号域を示し,周囲に造影効果をともなう病変をみとめ,脊髄内出血と診断した.血漿フィブリン分解産物,D-ダイマー,トロンビン・アンチトロンビンIII複合体の上昇をみとめ,凝固線溶系の活性化が示唆された.脊髄円錐部に出血をきたすことはまれであり,本症例では大腸癌とその転移にともなう凝固線溶系の亢進が誘因であると考えられた.
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(臨床神経, 48:263−266, 2008)
key words:脊髄円錐部, 脊髄内出血, 凝固異常, 線溶系異常, 大腸癌

(受付日:2007年10月5日)